【15号】東南アジアと日本の技術協力/野沢陞

私が始めて東南アジアヘ出掛けたのは、昭和29年の秋でしたが、それ以来ビルマの9年を始めとして、東南アジア8ヵ国に延べで12年の生活を送って参りました。卒業してから18年になりますので、3分の2は海外にいた勘定となります。同窓会に出席しますと、諸先生や同級の連中に「オヤ、日本にいたのか」と言われるのも、無理からぬ所でしょう。

入社した当時は、何をやる会社なのか自分でもよく分らず、ましてや他人に説明するのか全く困難でしたが、昨今はコンサルタントなる言葉も普遍化し、大小数百の技術コンサルタント会社も出来て参りましたので、大分話が通じ易くなって参りました。尤も未だに学生諸君や若い人達はメーカーのサービス部門位の認識しかなく、相当の識者でも測量屋や設計屋の集り位に思っている方が多い様です。これには色々な理由がありますが、兎も角、日本では仲々コンサルタントが育ち難い状況にあります。

所で、周知の通り、日本は開発途上国への経済協力として、GNP1%の援助とローンのアンタイドを努力目標としてコミット致しましたが、これに伴ってコンサルタントの育成の重要性が強く叫ばれる様になって参りました。理屈の上では、どこの国のコンサルタントであろうとも、機械や工事の受注に影響するものではありませんが、現実には仲々そうも行かず、コンサルタントの国のメーカーや工事業者が有利となり、或いは受注後の作業もやり易くなるのは事実で、日本のコンサルタントが充分進出してくれないと、下手をすれば日本は金だけ出して、機械や工事は始ど欧米にとられてしまう事にもなり兼ねない訳です。

ビルマのバルーチャン水カプロジェクトは、賠償協定以前に着手されたので、そのコンサルタント業務受注をめぐる欧米政府筋の支援は可成りのものでしたが、結局日本側に軍配が上りました 最近の例では、先進7ヵ国の贈与基金で実施された水カプロジェクトのコンサルタントを、フィージビリティ・スタディの頃から手掛けて来た私共の会社が受注しましたが、某国政府がその特命発注に強く反対し、自国のコンサルタントを送り込むことを要求した例もあります。各国ともこの様にコンサルタントの売込みに力を入れております。

尤も日本の重電機器の国際競争力は今や充分強力になり、アンタイド・ローンになっても余り恐れることは無いかも知れません。併し、安心はしておられません。ハード・ウェアは確かに立派で、価格も充分な競争力をもっておりますが、現地に於ける指導とか取扱説明書などのソフトに属するものは誠にお粗末であり、非常に不評を買っています。

これは詰る所、言葉の問題とも言えましょう。如何に立派な技術を身につけた者でも、言葉を解しない者はオシのツンボみたいなもので、自分の能力を発揮出来ません。ビルマでこんなことがありました。H社が汽船を引渡す時、電気系統が正常でないから、日本から同乗して来た電気技術者は一年間乗組員として残れと客側から要求されました 客側の機関長は交流の知識が余りなく、1kWの負荷に500ボルトを掛けて2A以上の電流が注れるのは、どこかが狂っていると頑張っている由で、H社の技術者が陳弁これ努めたが了解して貰えないと商社の人が私に相談に来たのです。又、T社のエア・コンディショナーが頻繁に焼損すると客先からクレームを受け、日本から技術者が飛んで来て調べた所、電圧が低すぎて起動時に過電流が流れる為と分りましたが、それを客側に説明し切れなくて、私に助けを求めに来ました。どちらの場合も、日本語では充分説明出来るのに、英語となるとシドロモドロとなり、余計に疑われて信用して貰えなかったり、意が通じなかったりしただけの話です。

勿論、言葉だけではなく、イニスとノーをはっきりさせない事、客側の責任を書面で確認することを避ける習慣、ひどい例では「そこを何とか一つ」と言う非論理的センス等、問題は可成りあります。この様なソフトに於ける後進性を改めて行かなければ、日本の技術協力は前途甚だ香しからぬものとなりましょう。

タイのブンチャナ経済相は「東南アジアの国々の発展の為、資本・技術の提供国として最もふさわしいのは、経済的・地理的にみて西欧諸国ではなく、日本である」と日本の役割を強調しており、日本は開発途上国への経済協力として数十億ドルに達する援助をコミットしつつあります。併し、物や金をバラまくだけでは本当の協力になりません。それに伴うソフト・ウェアの提供が肝要です。開発途上国の心ある技術者達は、人種的・文化的に親近感を抱く日本の技術者を高く評価し、その指導を望んでおります。にも拘らず、物を売ることのみを重視し、技術協力を軽視するどころか、むしろ厭がっている現実は誠に憂うべきことと思います。

国際的に太刀討の出来るコンサルタントを育成し、経験豊かな技術者が国際的感覚を養って技術協力に参加し、メーカーもハードのみならず、ソフトの提供にも力を注ぐ様になってこそ、30乃至40億ドルの巨額の援助も有効に活用され、開発途上国の求める真の経済協力が達せられる事でありましょう 電力と通信は、経済発展の基盤の重要な分野であり、経済協力に占めるウエイトは甚だ大でありますから、諸先輩・後輩の皆様方の御協力と御活躍が期待されます。

(昭和28年卒 日本工営KK電機部次長)

<15号 昭46(1971)>

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