【15号】大学改革について/尾佐竹徇

会員諸兄御承知の、通称「安田講堂事件」か ら、もう満2年以上が過ぎ、久方ぶりに本郷を訪ねられる方々は、相変らず立並ぶ「タテカン」 を御覧になると「まだやっているのですね」という感想を持たれる方もあり、また、一方では 「案外静かですね」という感想を持たれる方もある。電気・電子工学科の学生はよく勉強もす るし、出席率もよい。しかし、また中には私の 講義の中の雑談だけを、ことこまかく筆記して編集しなおし、大きな「立カン」に書き銀杏並 木に出す学生もいるのが現状である。

同窓諸兄も、大学粉争と大学改革についての御関心を持っておられるかと思われるのでここ でごく簡単に経過を御紹介することにする。

先ず3年前ストライキたけなわの頃の1968 年12月2日に現総長が総長代行に就任後「学生諸君への提案」の中で大学改革委員会の設置 を提案し、今後学生と一緒になってよりよい大 学にしてゆこうではないかと呼びかけをおこなった。その具体的な動きとして明くる1969年 1月に教官のみによる大学改革準備調査会が発 足し10月に莫大な第1次報告書が作られ、大学紛争の原因分析、今後の大学改革として考えるべき点についての報告が出来上った。

その間に1月10日に神宮ラグビー場におけ る、いわゆる「確認書」が取かわされ、 1月18 日に安田講堂事件となり、その後2ヵ月くらいの間に各学部のストライキが解除された。工学 部のストライキの解除に当っては電気・電子工 学科の学生は実によく働き、その推進力となっ ていた。

加藤総長の大学改革に対する構想は、教官側、 学生側、職員側でそれぞれの大学改革委員会を作り、その全体をまとめる大学改革委員会を作ってゆくというものであった。

その後、学生側、職員側の改革委員会は一向に動き出さず、また総長交渉と称していてもな かなか大学改革の話題には乗らなかった 教官側は昨年1月に、大学改革委員会(教官) という名称で、総長の諮問機関として正式に発 足した。この委員会は10の学部と13の研究所から各1名の23名の委員と、総長指名の4 名の委員で発足し、委員長に向坊教授(工)、副委員長に大内教授(経)が選出され、大内教授 外国出張になり、現在植村教授(理)が副委員 長になっている。この委員会は、大学改革を具 体的に実行する案の作成を主たる任務として今 日迄に40回の本委員会とより多くの専門グループ会議を持って案作りを行っている。

そこで販上げた問題は、大学のいくつかの基本理念のうちどれを取上げるべきか、改革の具 体的進め方について、学生および職員の意見を どのように反映させるか、また参加させるか、 さらに具体的に総長選挙はどうやるか、研究教育体制として学部、学科のあり方、カルキュラ ムの組み方、学生の選択の範囲、また、学内の 諸規則、学生ストライキ、学内の政治活動をどう考えるか、また教官の自己規律としての任用、 審査、停年をどうするか、大学の管理・運営体 制、などの諸問題を検討しており、大体4月末に一応の素案を提示する手順で進んでいる。

これらの検討の途中で浮び上って来た点は、 東京大学があまりにもマンモスであることで、 各学部の間、各研究所相互の間にあまりにも量 と内容に差が大きいことであり、たとえば、あ る学部は、教官、学生数ともにわれわれの電気・ 電子工学科に近い学部もあり、また研究所も1 つの学科に付属したものと考えても良いものから、ロケットを打上げる大部隊を持っている所もあり、また共同利用研究所という本学の教官と他大学の教官とが同居しているところもあるといった次第である。

さらに学生と教官との関係についても大差があり、建物の管理、研究室の管理の責任者が名目と実質とがあまりにも違っているなどなど、永年つみ重ねられた問題点があまりにも多いのが現状である。

次に基本的な問題としては、現在の学生の間には、自分達が参加して決めたものでないもの以外は、何事も承服しないという気分があるいわゆる「一方的な押しつけ反対」というのである。その上に、世界観、人生観が多様であって、その間をお互に仲良くやろうという考え方が少く、各種のグループが分立している。

また職員組合にほとんど加入していない部局もあり、また助教授まで加入している部局もある。その上に大学の自治、学問の自由を守ることは大学の基本問題という認識があるので、大 学改革といっても、なかなかまとめにくい。しかし、すこしづつ方向づけが出来つつあるというのが現状であるといえる。

いづれにしても、電気・電子工学科は教官一同一致団結しておりますので、その意味では同窓諸兄に御安心願えるかと思っております。「和を以て貴となす」という額の精神が生きておりますことを一言付記して筆をおくことと致します。(昭和16年3月卒、東京大学教授、大学改革委(教官)工学部委員)

<15号 昭46(1971)>

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