【13号】我が国の製鉄の発展と電気・電子技術/野坂康雄

同窓会名簿を見ると当然のことながら、卒業 生の就職先は機器製造と電気事業関係が圧倒的 に多く、電気応用分野の製造工業にはごく少いことがわかります。特に戦前は重化学に見られるだけで、製鉄には極めて稀でした。ところが戦後は、進んで製鉄を志望される卒業生が増加し、様子は一変しました。これは製鉄にとって 電気の重要性が従来より大幅に増大したことを物語っています。今日の製鉄における電気技術の発展の端緒は戦時中政府の要請により西、大山両先生のご発案にかかる製鉄電気協力班の活動にはじまったもので、当時を顧みると全く今昔の感があります。今回この紙面を与えられましたので、あまり知られていない製鉄における電気応用の現状をご紹介致します。

鉄を作る(正確には鋼材を作る)技術は溶解、精錬、圧延などの冶金技術が基調で、技術そのものは電気とは縁遠いのですが、電気技術をうまく利用することによって生産効率、品質を上げ、労働関係の改善をするなど大きな効果がもたらされます。もちろん以前から電動力応用や自家発電で電気技術は重要でありましたが、どちらかといえば鉄鋼製造技術とはある境界を作っていました。それに比較すると現在では種々な面で電気は製鉄の中に深く浸透し、独立した専門技術ではなくなりました。

製鉄における電気・電子技術の応用は大別して電気機械、電力、制御、計算機などです。電気機械の代表は圧延用電動機で、種々の必要から直流機が多く、一部では同期機が使われています。容量も圧延機が大型になるに伴いつぎつぎに記録品が現われ、分塊や厚板圧延では1万 kW級が普通になりました。またごく最近では 従来のイルグナ方式の電源に代ってサイリスタの採用が目立ち、半導体電子機器が強電機器の仲間入りをしました。実例ではホットストリッ プミルの仕上圧延で総出力6万kW級のサイリスタ駆動の電動機群があります。また高炉送 風機用37,000 KVAの同期電動機も作られました。

製鉄業は別名運搬業ともいわれ、コンベア、起重機等多数の荷役機械が稼動しており、駆動 用各種電動機の数はおびただしいものです。その他ブロワ、コンプレッサ、ポンプ、圧延用補 機等をあわせると、製鉄はまさに電動力応用のデパートです。しかもこれらは24時間連続運転ですから、電気技術者の責任は極めて重要です。

精錬用の電気炉も大容量の負荷です。電気炉は特殊鋼製造の面で小廻りがきくことから、年々増加しており、また一方最近開発されたUHP操業は能率が高く、将来は転炉を凌駕して普通鋼の分野にも進出するとさえいわれています。その時は10万KVAクラスが必要となりましょう。

このような負荷の使用電力は莫大で、最新の 一貫工場(粗鋼年産500万トン)では平均20 万kWが必要です。量ばかりでなく、負荷の性質上短時間ビークがはげしく、電力使用上多くの問題があります。特に系統に与える影響については十分対策を考える必要があり、さらに 電カコストを下げ、合理的な運営と地域電力会社との密接な協力を行うことは電気技術者の大切な任務です。これまでは港と水が製鉄工場のおもな立地条件でしたが、今後は電力も重要な要素として加わります。電力は買電のほか高炉の副産ガスによる自家発生も多量で、この電力と他のエネルギ潮流(ガス、蒸汽、酸素、水) は操業と一体になっています。従って常にこの 需給バランスを最適状態にするため、エネルギセンタによる監視や計算機による予測制御が行われます。また最近は高炉ガス利用の共同火力も建設され、料金と公害防止の両面で効果を上げました。また将来は料金が下れば電気製銑も可能とされ、原子力の利用も夢ではなさそうで 製鉄設備のように大型なものの運転は自動化なしには出来なくなりました。製鉄における制御は最初は電気制御とプロセス制御(炉の燃焼 制御など)とが別個に導入されました。しかしその後応用範囲の拡大と技術者の能力活用の両面から次第に境界がなくなって、今では制御技術という重要な部門になりました。最近では自動化の効果もはっきり認識され、ほとんど大部分の設備に自動制御は不可欠となり、それに従って制御システムの発達はめざましく、同時にシステムは高性能で複雑になりました。サイリスタ制御の圧廷機などでも1万kWの電動機 が小さな電子部品のために停止することも起り、ここでは強電と弱電は混然一体となって全 機能を遂行せねばなりません。従ってこの場合 制御技術者は電気・電子両面に精通した幅の広い人であることが必要です。

制御の目的は従来はある条件(電圧、速度、 温度など)をおさえることにありました。しかしこれだけでは成品の品質を直接制御することができず、このために考えられたのが計算制御です、例えば転炉の適中制御、ホットストリップミルの自動圧延がそれで、新設備では例外なく取り付けられています 計算制御システムを作ることはかなり高級な技術と長期間を要し、しかも前提として対象プロセスの解明が必要です。これには電気のみならず鉄鋼製造技術者との密接なチームワークで智恵を出し合うことが 必要です。私達は諸先生から回路網理論で苦い汁を飲まされたおかげか物事をシステマティックにとらえることは大変上手で、この仕事にはうってつけだと重宝がられています。将来は計算制御による全工場の自動運転も考えられ、今後とも制御システムの発展は大きな期待がもた れています。我々は制御技術を通じて電気技術の価値を改めて認識し、将来のあるべき姿に対しても確信がもてるようになりました。

計算制御は自動運転の手段として高く評価さ れて操業上不可欠になった反面、システムの信頼性が生産性を左右することになり、その責任も当然我々の上にかかって来ました。ここに計算制御ないしは、計算機関連の諸問題があります。計算制御はオンラインリアルタイムであるため、一般の計算機利用に比較してはるかに面倒で、多くの場合システム作りはユーザー側の仕事になっているのが実情で、ここに電気・電子技術の存在が大きくクローズアップされています。 計算機にはソフウェアのいう厄介なものがあり、ハードウェアとは不離のもので、これも我々の責任分野です。

制御システム構成要素として各種のマイナループ系、工業計測、非破壊検査がありますが、これらの信頼度と正確さについては問題が多く、しばしばシステム性能上のネックになっています。これらの開発のためにも電気、電子技術者の活躍が望まれます。

日本の製鉄は量、質ともに世界第一流となりましたが、今後の競走は愈々はげしく、内容も一層キメこまかいものになることは必定で、それに伴って電気、電子技術の重要性はますます 増大すると思います。さいわい八幡製鉄をはじ め大手鉄鋼各社には、同窓の卒業だけでも約 40名が活躍して居ります。今後とも皆様のご支援とご協力をお願い致します。

(昭和18年卒 八幡製鉄(株))

<13号 昭44(1969)>

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