【7号】伝送系としての東海道新幹線電気設備/国松賢四郎

鉄道が、人と物の輸送の面で、人間の社会活動に大きな貢献をしていることは申すまでもありませんが、丁度それと同様に、鉄道の中の電気部門は、電力と情報の伝送系として無くてはならないものとなっております。勿論、伝送だけが電気部門の機能のすべてではありませんし、発生、変換、保存等の重要な機能を度外視する積りはありませんが、今回は、東海道新幹線の電気設備について、特に電力と情報の伝送系としての一面に注目して、それらのシステムの基本的なことがらについて、お話したいと思います。

まず電力伝送系として見た新幹線電気運転設備の主要な課題は次の3つでしょう。

  1. 商用周波単相交流電化方式
  2. 50~60サイクル帯の貫通運転
  3. 高速度集電方式

新幹線を交流電化するか、直流電化するかについては慎重に調査した結果、第1に編成入力が10MVA位の電車を沢山同時に走らすためには電車モータ電圧を上げないで、変電所からバンタグラフまでの電圧だけを上げる必要があるので、パンタグラフと電車モータの間に変圧器が使用できること、第2に電化設備の建設費を経済的に設計できること、第3に現在線とは線路の軌間が違うので、その間の相互乗入れをしなくともよいこと等の理由から、商用周波単相交流電化方式を採用することに決定いたしました。

そうなってまいりますと、関東と中部関西地区の商用周波数の違いを処理せねばなりませんが、50~60両周波用電車が単用の電車と比較して重量が大きく、運転や車両修繕が複雑であること等を考慮して、架線電圧を60サイクルに統一することにしました。従って横浜と小田原には50~60サイクルの周波数変換変電所を建設中で、関東地区を走る電車にはここから60サイクルの電力を供給することにしています。

新幹線の設計で苦心した問題の一つとしてパンタグラフの高速集電方式があげられます。これは電気鉄道技術部門の重要課題として常に研究が続けられておりますが、電車の速度が今度の様に200粁/時以上になりますと、 従来の方式では安定な集電性能を得ることが困難で特に車上装置と地上設備の間の力学的な協調が大切となってまいりますが、私達は新しい電子測定装置の援けをかりて、高速性能の非常によい集電系を作りあげることに成功しました。

次に今一つのシステムである新幹線の情報伝送系について申上げましょう。まず鉄道固有の情報処理として、同一線路に先行している列車に関する情報の伝送と処理機構、いわゆる信号保安装置として、先行列車位置の検知には最も信頼度の高い軌道回路を使用することにしました。

そして、前列車との距離、進路の状態等から210,160,110,70,30及び停止の6段階の速度信号を運転手の前のパネルに現示して、自動的に制動をかける方式、いわゆるATC方式を採用いたしました。この方式を採用したことによって、運転の安全性が著しく高められ、同時に運転手は、地上信号機を、注視して制動をかけるという神経的に重い負担からも解放されました。

一方新幹線では駅間隔が平均50粁ですから常時的に運転手と中央運転指令員との情報交換のためには列車無線電話が必要になります。それもトンネルの中や山陰の路線でも安定な通信ができるという条件がつきますので、幾つかの方式について、試験を行った結果UHF帯の無線方式を採用いたしました。

そこで中央指令所に集って来る情報を整理すると、遠方監視装置を介して、各列車の位置、各駅の信号機とポイントの動作状態、各変電所と送電系統のき電状態、無線・有線機器の動作状態等が幾つかのパネルに表示され、電話を介して車上の各運転手各車掌や、現地の各作業員からの現況報告が入って来る訳です。理想的な形体を考えると、これ等の情報処理も、電子化された自動装置によって行うべきですが、目下の所はこれ等を数名の指令員によって処理することにしております。

このように、新幹線の機構の内で往復する情報の内容は非常に重要なものが多く、又高速度で送らなければならないので、高速符号通信を活用しております。一方路線にそって色々な設備、機関の連絡用に短距離通信路も必要となってまいりますので、しゃへい率の高い細心同軸複合ケーブルを採用しました。

以上で、伝送という面から見た東海道新幹線の電気設備の系統について述べましたが、残された紙面で新幹線の電車の電気部分の特徴についてふれましょう 先ず電気装置を全部床下配置にして、しかも軸重を軽量均一化するために非常な苦心がはらわれました モータは電車の全軸に配置されておって、駆動と制動の両面の働きをする脈流電動機です。従ってバンタグラフから受けた単相交流は床下に導かれてから変圧器、シリコン整流器によって脈流率数十%の直流に変換される訳です。又電動機と車軸間の動力伝達には、たわみ継手を用いていますから、台車の電気バネの使用と相まって非常に軽快な運転を実現しています。車内は完全な空調が行なわれ、どこからでも公衆電話が通じます。

現在、この様な電車を6両試作しまして、小田原付近のモデル線で毎日訓練運転をやっておりますが、その成績は私達が当初考えておりましたことを殆んど達成することができました。このように新幹線の地上車上の電気設備は、土木工事と平行して幸にして当初の計画通りにできあがりつつあり、更に私達は明年の営業開始をひかえて万全の準備を進めておりますが、ただ私達として非常に残念に存じておりますことは私達の計画が最近目覚しく進歩した電気技術を百%利用する時間がなかったことです。その様な諸点については開業後の改良工事として早急に実現して行きたいと考えておりますので、皆さんの今までにおとらぬ御援助と御指導をお願い申上げます。

<7号 昭38(1963)>

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