【10号】電信電話事業の現状と問題点/米沢滋

日本電信電話公社は、昭和27年8月1日にそれまでの国営形態から公共企業体として発足したが、その翌年の28年度から電信電話設備拡充第1次5ヵ年言計画に着手した。最近公共施設ないし社会資本の長期計画にどこでも力を入れるようになってきたが、戦後最も早く本格的な長期計画を立て、またこれを着実に実行し成果を現わしてきたのは、電信電話事業であった。

昭和28年度から32年度に至る第1次5ヵ年計画において、 2,935億円を投資して109万の加入電話増設をおこなった。つづいて昭和33年度から37年度まで第2次5ヵ年計画を実施し、7,373億円を投資して214万の加入電話増設をおこなった。さらに昭和38年度から第3次5カ年計画に入り、40年度はその3年目にあたっている。第3次5ヵ年計画では1兆7,875億円を投資し、500万の加入電話増設をおこなうことにしていたが、最近における需要の予想以上の増大に対処するため、計画を修正する必要にせまられている。

第1次5ヵ年計画に着手する直前の加入電話数は全国で155万であったが、昭和40年度末には734万に達する見込である。これを電話機数に換算すると1,100万となる。

世界各国と比較してみると、電話機数では、わが国は米国に次いで世界第2位となっている。しかし、人口100人当たりの普及率では、世界第19位で、いまだしである。

市外電話回線の粁程をとってみると、電電公社発足直前129万粁だったものが、40年度末には2,280万粁となる見込である。

財務会計画の数字でみると、公社発足当時の固定資産額は3,896億円であったが、40年度末には約1兆9,000億円となる。毎年の建設投資額は、昭和28年度が606億円、第2次5ヵ年計画に入って1,100億円台から2,000億円台に累増し、先般きまった41年度予算の政府案では4,120億円となっている。また、事業収支の規模では、昭和28年度979億円だったものが、41年度予算案では5,530億円となっている。

700万の加入電話が相互に通話できるためには24兆5,000億の回線の組合せが必要である。こうした相互通話の組合せの急速な増大、あるいは市外通話即時化の進展等の結果、電話回線は著しくにくなってきた。第1次5ヵ年計画当時は、加入電話1名当りの市外回線は平均1回線粁未満であった。しかし、現在では1加入当り3回線粁以上必要となっている。

したがって、本来ならば市外関係で投資金額は3倍になるわけであるが、今日までこれをほとんど横ばいにとどめてきた。すなわち3×1/3=1という関係になる。これは、電信電話事業が高度の技術革新を推進した成果である。

とくに顕著なのは、わが国の伝送関係の技術であり、たとえば,、360チャンネルのマイクロを1,200チャンネルにし、あるいは1,800チャンネルに多重化する。また、同軸ケーブルの960チャンネルを2,700チャンネルに多重化するといった技術革新がこれである。

いまわが国の電気通信技術の水準は、欧州諸国のそれよりも上位にあり、マイクロ波多重通信技術は米国と完全に対等となっている。これは、過去30年間にわたり、電電公社内外の技術者が、わが国独自の技術を生みだそうとして努力してきた結果である。もしも、13年前の第1次5ヵ年計画当時の技術のままで、第2次および第3次5ヵ年計画を遂行したと仮定すれば、約4,000億円の投資額が余計にかかる計算となる。このように技術革新によって投資のコストを抑え、昭和28年以来今日まで、他の公共事業が2回ないし3回料金値上げをしている間、一度も値上げをせずにきたのである。

わが国の電気通信技術が世界的水準をぬくことの証明として、たとえば、英国が目下英連邦をつなぐ同軸海底ケーブルで、世界を一周する電気通信網をつくっているが、オーストラリアの東海岸で、その英連邦通信網の一部をなすものとして、1,500粁にわたって陸上にマイクロ施設をつくりつつある。ここに日本のトランジスタ化したマイクロ中継方式、同機器が輸出されているのである。

電信電話事業の長期計画の目標として、昭和47年度末すなわち第4次5ヵ年計画修了時に「申込めばすぐつく電話」「全国どこへでもすぐかかる電話」を実現することとして、5ヵ年計画を遂行してきたのであるが、開放経済体制を迎えた今日、企業の合理化・能率化の手段として電話の重要性が一層増大したこと、地域開発計画の進展等にともない電話の必要度が高まってきたこと、国民生活形態の変化・生活水準の向上等により電話に対する需要が増してきたこと等のため、電話架設の申込が予想以上にふえ、現在電話局の窓口に積滞している未設の数が167万にも達し、しかも毎月10万以上の申込がつづいている状況である。この結果、長期計画を今後にむかい改訂する必要が生じてきた。

また、電話が地方都市・農山村あるいは住宅等に普及するにともなって、1加入当りの収入が低減してくる。現在月額平均収入5,000円程度で事業が成り立っているのが、月額収入2,000円以下の加入者が今後次第にふえてくる。こうした収入の構造変化等にともなう事業収支の悪化という問題が生じている。

さらに、加入電話架設時に加入者に引き受けてもらっている最高15万円から以下の電話債券の償還額が、昭和45年度から一挙に1,500億円になり、さらに1,800億円、2,300億円、というふうにふえていくことになる。

こうして、昭和41年度から47年度までの7ヵ年間に、建設投資額として5兆260億円、事業収支の赤字として7,260億円、債務償還額として7,120億円の膨大な資金需要が生じてくる。

電信電話事業は、今日まで技術革新の成果をとり入れることにより、経営の合理化をはかり、加入電話の増設・自動化、市外通話の即時化・ダイヤル化等顕著なサービスの向上をはかってきたのであるが、公社発足13年にして、経営上の重要な曲り角に当面しており、料金値上げを含めた根本的な対策の実施が必要となっているのである。

(昭和8年卒 日本電信電話公社総裁)

<10号 昭41(1966)>

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