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  • 近頃思うこと(その24)/沢辺栄一@クラス1955

     東京電力福島第一原子力発電所の問題は過去の震災情報を十分生かさなかった結果発生した大きな事故である。情報にいかに対応するかが問題であるように思われる。

     日本ではこれまでも情報を十分に生かさなかったり、情報を取得し、調査分析に手を抜いた結果、重大な損害を蒙ったことが多々ある。その例を2~3列記してみる。
    ・昭和12年8月、日中戦争の事実上の開始となった第2次上海事変が勃発した。第一次世界大戦後、ドイツは敗戦により租借していた青島を中国に返還し、日本がドイツ領であった南洋諸島統治をすることになり、日本に対して強い反感を抱いていた。中国軍はエリート将軍を団長とする数十名からなるドイツ顧問団の軍事指導、軍事訓練、トーチカなどの軍事施設の建設指導を受けた。ドイツ軍事顧問団は日本と戦うことを中国にけしかけていた。第1次上海事変当時とは異なり、中国軍はドイツ顧問団の指導とドイツ製最新武器の供与およびトーチカの建設によって非常に強くなっていた。これは中国を盾とした日独戦であった。ドイツが顧問団を派遣し中国軍を指導して、武器を輸出していることは日本も知っていたが、中国軍が強くなっていることに注意と調査並びに対策を怠り、これまでの中国軍との戦いから数日で終わると考えていたのが、3ヶ月も掛かり、旅順戦に相当する4万1千余人の死傷者を出した。
    ・ノモンハン事件が始まる前の4月に日本は独ソが手を結ぶという情報を入手していた。独ソ提携でソ連の欧州の兵力をノモンハンに投入することが可能であると予測できたが、ドイツとソ連のそれぞれの意図を読めず、ノモンハンでは莫大な損害を受け、あの日本人の素晴らしさを小説に書いた司馬遼太郎も余りの日本人の酷さに小説にすることを止めたということである。
    ・昭和14年5月に始まったノモンハン事件の際、日本の航空隊は当時満州領だった現中国の大慶油田の上空を飛行し、眼下の湖沼に黒く輝く油膜のようなものを認め、満鉄に報告していたが、満鉄は「石油が出る地層でない」とし、一度も現地調査を行わなかった。中国はそれから約20年後、その場所に第二次大戦開始当時の日本の年間消費量の10倍にあたる石油を産出をする大油田を発見した。当時調査していれば、資源を求めて南方に進出し、アメリカと衝突しなくても済んだかもしれないと言われている。
    ・スウェーデン駐在の武官から、ドイツ降伏後3ヶ月でソ連が対日攻勢に出るとの電報が入っていたが、この電報は大本営作戦課で握りつぶされ、また、別の武官のシベリア鉄道調査報告で、ソ連の極東に輸送される物資の中に防寒具が少ないことなどの情報から、大本営情報部のソ連課はソ連が8、9月に参戦すると判断していたが、何ら対応が執られなかったため、良く知られた大きな悲劇を生んだ。

     戦国時代や江戸時代には武将や幕府は隠密を放ち情報を詳細に取得して、常に状況を把握していた。明治時代はこの傾向を保っており、日清戦争前に中国内に情報収集の人間を派遣したり、日本の軍事高官自らが調査を行っている。日露戦争前にも満州、シベリアに将軍が直接足を運んで調査を行っている。ところが日露戦争以後は勝利に慢心し、情報の重要さをないがしろにしたように見える。ノモンハンで経験した戦車、航空機、小銃などの圧倒的な武器力の差を反映させず、太平洋戦争でも米国は自動小銃を使用していたのに日露戦争に使用した三八式歩兵銃をそのまま用いていた。米国の戦力を知っている米国通の軍人は中央部から遠ざけられ、米国の正確な情報無しの、精神力と雰囲気で戦う事になり、情報で負けた戦争であった。一番お粗末なのは大本営の米国に関する情報を扱う課は戦いが負け始めて昭和18年後期になって初めて対米重視とし、拡充されたと言う。
     戦略を立てるためには的確な情報が必要である。日本人の欠点として情報を事実として厳密に捉えるのでなく、その判断に感情や期待が入るため、戦略を誤ることになることが多い。いつの内閣でもそうであったが、内閣が変わる前の内閣の支持率が低いのに、変わると急に支持率が高くなるが、新内閣の実績や実力は不明であるので、世論調査での結果は普通ならば実績が出るまでは判断できないと言う立場の割合が最も多くなるのではないかと思われるが、実際の世論の結果では期待が入っているためと思われるが、必ず支持率が多くなる結果になっている。
     ローマ史に詳しい塩野七生氏は将来日本は「和によって亡ぶ」と言っている。日本人が最重要事項を事実に基づき議論するのでなく、気まずくなるのを恐れ、和を乱すまいということが優先して物事を決める傾向にあることを指摘している。情報よりも和の空気を優先する気風は各国の自国の国益を優先する世界の中で対応できるのであろうか。
     情報には必要なものとして取ってくるほかに、故意に隠蔽したり、偽り情報を出したり、いわゆる情報操作を行うことが多々ある。逆に機密情報を取られることもある。
     情報操作が行われた例としては2010年6月に韓国で行われた統一地方選挙で、与党の政策が成功していたので、与党は負けるはずがないという事前の状況であったものが大敗した。理由は北朝鮮の手になると思われる勢力が韓国のネット空間に毎日のように書き込みを行い、この北朝鮮発のネット上の扇動工作が韓国の若者に人気のあるウェブサイトに掲示され、韓国の若者を動かした結果であったとのことである。特に日本人は周りの空気に弱いのでこのような情報操作に流され易いように思われるので恐ろしい。
     的確な判断、行為のために正しい情報や隠された情報を正しく得るにはどうしたら良いのか、誤りの情報を誤りだと判断するにはどうしたら良いのか。また、正しい情報による判断を相手を傷つけず如何に説得したら良いのか思うこの頃である。
       沢辺栄一(2011.9.27)

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