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  • クラス1953新(昭28新)

    【食用油脂と生活習慣病/猪狩武尚】

    今回、名古屋市立大学薬学部教授の奥山治美先生(元 日本脂質栄養学会会長)の著書「薬でなおらない成人病(生活習慣病)一拍脂の栄養革命で健康を取り戻す」(黎明書房1999年)を読み、深い感銘を受けました。奥山先生は現在の脂質栄養学の先駆者のようですが、残念なことに上記の本はやや学術的な書き方で、素人にとってはやや読みにくく、奥山先生の主張を実際の食生活にどう取り入れたらよいかを理解することは容易でないようです。そこで、他の著者の本をも参考にして、小生白身の知識を整理するとともに,知人の皆様にも理解しやすいように食用油胎の摂り方をまとめてみました。

    奥山先生は、上記の本の序言で、「動物性脂肪を減らし、リノール酸の多い植物油を増やすという約30年前の成人病予防のための栄養指針は完全に間違っていた」と述べています。簡単に言えば、動物性脂肪の摂取を減らしても生活習慣病の予防には役立たないし、リノール酸の多い植物油の摂取を増やすと生活習慣病になる危険性が増大するということです。

    また、本文では、心筋梗塞・脳卒中の主要な危険因子は、コレステロールではなく、リノール酸の過剰摂取であることが分かった、と述べています。以前は心筋梗塞・脳卒中を防ぐために、卵は1日1個にしなさいといわれていましたが、今は家族性高コレステ由一ル血症という遺伝性の病気の人以外は憩卵を毎日3個食べても長期的には血清コレ不テロール値は上がらないことが分かっているそうです。
     奥山先生の本の要点は、欧米型のガンをはじめとする今日の多くの生活習慣病の原因はリノール酸系列の油(n-6系列脂肪酸)の摂り過ぎであり、これらの病気の予防には、日常の食事において余分のリノール酸系列の油を摂らないこととαーリノレン酸系列の油(nー3系列脂肪酸)を多めに摂ることが有益であるということです。また、すでにこれらの病気にかかっている人ほ、薬によって病気を完全に治すことは困難であるので、病気の進行を遅らせるための医師の治療を受けるとともに上記の食用油の摂りかたを守って1,2年間体質の改善を図ることが望ましいということです。

    ここでいう欧米型のガンとは近年わが国で患者が急増している肺ガン、大腸ガン、直腸ガン、乳ガン、すい臓ガン、前立腺ガン、食道ガン、皮膚ガンなどであり、奥山先生の本において上記の食用油の摂り方が有益なその他の生活習慣病として取り挙げているのは、心臓病、脳出血、脳梗塞、アレルギー症、アトピー性皮膚炎、アルツハイマー型痴呆症、肺炎、気管支炎、呼吸困難症などです。

    生活習慣病には上記のほかにいろいろな病気があります。それらの予防には一般にいわれているように、良い食物を選ぶこと、食塩の摂取量を減らすこと、ファストフードを食べないこと、喫煙・飲酒をやめること、適度の運動をすること、ストレスの解消に努めることなどが有益であると思います。

    食用油脂の分類と選択基準 

    食用油脂は以下の3種類に分類されます。

    (1)飽和脂肪酸、1価不飽和脂肪酸の系列
     動物性脂肪の主成分およびオリーブ油などに多く含まれているオレイン酸で、食物として摂取されたものの他、体内で糖質およびたんばく質からつくられ、エネルギー源として体内に貯蔵される。
    (2)リノール酸系列(nー6系列、ωー6系列ともいう。)
     リノール酸は植物の種子、穀物などに含まれ、欠乏すると不妊、皮膚の病変を起こす。しかし、過剰に摂取すると、リノール酸由来のアラキドン酸が体内でガンやアレルギー性疾患を促進する物質を発生させる。(最近、ある健康食晶メーカーがカプセル入りのアラキドン酸を発売したようですが、これは危険だと思います。)
    (3)α-リノレン酸系列(nー3系列、ωー3系列ともいう。)
     α-リノレン酸はエゴマ油、シソの実抽、アマニ油に多く含まれ、脳・神経系の発達およびその高次機能の維持に役立ち、また、リノール酸の過剰摂取による弊害を抑制する。魚油に含まれるEPAやDHAはα一リノレン酸系列の油である。

    食用油脂の選択について、奥山先生の本の中の表に小生が手を加えたものを以下に示します。
                                  
      分類名    油脂名または食品名  選択基準等
    n-3系列脂肪酸 α-リノレン酸,DHA,EPA。  青魚を多く食べる。           
    (α-リノレン 荏胡麻油、紫蘇の実油、亜  エゴマ油等は高温調理  
    酸系列)    麻仁油(フラックス油)。  を避け、マリネ、サラ       
            イワシ、サバ、イクラ、   ダ、スープ等に使う。
            アユ等。

    n-6系列脂肪酸 リノール酸、アラキドン酸。 必要なリノール敢は普
    (リノール酸  大豆油、コーン油、紅花油、 通の食事で十分供給さ                                           系列)    菜種油、ひまわり油、    れる。それ以上の摂取       
            ぶどう種子油、胡麻油*    は有害なので、できる
                          だけ控える。

    飽和脂肪酸、 バター、牛脂、ラード    高温調理に使える。太
    Ⅰ価不飽和                 らない程度に使う。
    脂肪酸

    高オレイン酸型 オレイン酸。 キヤノーラ油、 高温調理に使えるが、
    植物油     高オレイン酸型べにばな油等、植物性オレイン酸の安    
            キャノーラ油、オリーブ油** 全性が確認されていな
                          いので、摂りすぎは避
                          ける。
    * 胡麻油には脳卒中促 進因子は含まれていない。
    ** オリーブ油は健康に良いという意見が多いが、大腸がんを促進すると         
       いう意見もある。 

    α-リノレン酸系列の油の摂取について

    α-リノレン酸系列の油にはα-リノレン酸、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)があります。EPAとDHAは魚の油に多く含まれています。α-リノレン酸はエゴマ油に重量比約60%で、シソの実油に重量比約55%で、食用アマニ油に重量比約50%で含まれています。これらの油はスーパーマーケットの食用油売り場およびデパートの健康食品売り場で売っています。最近買った180グラム入りのエゴマ油は1155円でした。α一リノレン酸は体内でEPA,DHAに変化して利用されます。

    α-リノレン酸系列の油を摂取する最も簡単な方法は、脂の乗った魚、特に青魚を食べることだと思います。注意すべき点は、α-リノレン酸系列の油は酸化変質しやすいことで、魚の皮が焦げるような調理は避け、なるべく刺身か蒸し煮にして食べるのが良いと思います。イワシ、サンマ、サバなどの缶詰も手軽でよいと思います。青魚のないときはエゴマ油などを小さじ1,2杯飲むか、市販のカプセル入りのEPA、DHAを飲むのも良いと思います。

    日本脂質栄養学会の1997年の油脂摂取の推奨量は、1日2300カロリー摂取の成人に対し、 

     飽和脂肪酸と1価不飽和脂肪酸の合計   36グラム 
     リノール酸系列の油          10グラム 
     α-リノレン酸系列の油         5グラム
    であり、厚生労働省の2005年の「日本人の食事摂取基準」では、n-6系列脂肪酸:n-3系列脂肪酸=4:1となっています。すなわち、
    n-6系列とn-3系列の比は学会の2:1に対して厚労省は4:1です。奥山先生は1:1を推奨しています。α-リノレン酸系列の油は多めにとっても害はないそうですので、α-リノレン酸系列の油をできるだけ多く摂り、その他の食用油はできるだけ少なく摂るのが健康維持の秘訣のようです。

    トランス脂肪酸の有害性について 

    トランス脂肪酸は「一部硬化植物油」または「硬化植物油」とも呼ばれ、普通の植物油に水素を添加して作った常温で固体の油です。この油は一般のマーガリンや食品添加物のショートニングに多く含まれており、この油を摂取すると心臓疾患、脳卒中、糖尿病を起こす恐れがあるといわれています。昨年12月にニューヨーク市の保健委員会は市民の心臓痛死を減らすことを目的として市内の飲食店のフライ油やマーガリンに含まれるトランス脂肪酸を1食当たり0.5グラム未満に制限することを定めました。違反にはやがて罰金を科すとのことです。現状は1食当たり十数グラムのようです。アメリカの食品医薬品局(FDA)および日本の厚生労働省は,これまでトランス脂肪酸の使用を制限ないし禁止していませんが、いずれは規制するものと思われます。小生は、パン、ビスケット、クッキー、スナック菓子などの包装の原材料名の欄にショートニングと書いてある商品とマーガリンは買わないことにしています。驚いたことに、スーパーマーケットに並んでいる食パンの大部分はマーガリン入りです。ショートニングは本来はクッキーなどの製造時間を短縮するための食品添加物ですが、同時に人間の寿命を短縮する添加物でもあると考えておくほうが良いと思います。

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