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  • 人間って何だ(2)/齋藤嘉博@クラス1955

      「人間って何だ」の第4回は“動く”でした。以前未来科学館を訪れたとき「ロボットのAsimo君はやっと小走りができるくらいで、ジャンプはとてもできません」と担当者が語ったことをこのブログに書きました。

      それからたった3年、ロボットは今、障害物のジャンプから階段を駆け上るほどに成長しているのには驚きました。自動運転の自動車はもうここ2,3年で実用化の域にきていますが、運転の自動化は単に免許の問題ではなくて、そのデザインから商業的な意味まで変えていくでしょう。ほんとうに「自動」の自動車は小型になってヨドバシやコンビニでも販売されるようになるでしょうし、私のイメージは自動車より自動スケボー、自動靴に膨らみます。これなら歩く必要がなくて、お年寄りを含めて誰もが気軽に好きなところに行くことができるようになるでしょうから。
      こうした技術ものの対にあるのが感性AIの進歩。前稿でも勝負での感情が取り上げられていました。第6回の“恋愛する”にはロボットに恋愛ができるの?との期待。すでに2008年に、ディズニー/ピクサーが“ウォーリー”というアニメを作ってロボットウォーリーと彼女イヴとの恋愛を描いていましたから。しかし内容は恋愛そのものではなく出会いサイトでの相性をAIで鑑定してその成功率を高めようというもの。そんなの興味はありません。そもそも恋愛とは根底には種の保存という本能があるはずで、そうした種の保存の必要がない、人間が作った作り物に恋愛なんて無理なんですネ。これは食欲にも通じるでしょう。
      第3回の“発想”にはこの番組のナビゲーターである東大の松尾先生と相棒の徳井さんの席に漫画家の藤田さん(少年サンデーに連載中)が招かれて、藤田さんは「AIは俺たちの仕事を脅かす敵だ」と言われながら、多数の絵をラーニングしたロボットが線画に色彩を塗っていく過程に「AIもなかなか立派に色彩を付けるのですネ」と。しかし結果はご満足にほど遠いようで、“まあちょっとしたヒントにはなるでしょう、私(藤田さん)の助手にはなれそうだナ”とのことでした。
      と考えている最中、おりも折とてムサビ時代からの友人、ファッションデザイナーのエマさんから“AIでデザインした衣装のコレクションをするから見に来て”との手紙。
      エマさんはウェディングドレスを中心に活躍するファッションデザイナーですが、数学や未来学に強く、数年前にも本郷の2号館下のアトリウムで宇宙に行く人のためのファッションのショーをしたこともある方。さて今回はどんな衣装が拝見できるのかと興味深々。駒場、東大生研のS棟で行われたコレクションは満員の盛況でした。例のように数人のモデルさんが次々と、エマとAIがコラボでデザインしたファッションを披露しました(写真)。 AI-2.jpg
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      解説では草と貝殻、自然が織りなすパターンと色合いをラーニングしたAIが模様にまとめ、それを基本にエマさんが衣装に作り上げたという。しかしここでもAIはデザインへのヒントという域を出ないようです。その後別の教室でシンポジウムが開かれましたが、その雰囲気はもう何十年も前に私たちが学会でやってきたことと同じ。人間世界はあまり変わらないんです。
      第10回の“味わう”では農業への利用が取り上げられ、ドローンとの共同作業による農薬の散布が取り上げられていました。私が興味をもったのは、トマトを見た目でそのおいしさを知るとの解説。トマトの表面の色を三原色に分解して、すでにラーニングした経験データーと照らし合わせて、甘味、酸味、旨味、苦味、塩味の大きさを判定するというのです。この場の実験ではいい線に行っているとのこと。昔はスイカの熟度をコンコンと皮の表面を指で叩いて「うん、よさそう」なんてやっていたものでしたが、味や熟度の判定はよほどのベテランでないとできなかったことでしょう。三原色でなくて人間生来の感覚を紫外線、赤外線、また色以外の世界でも超音波、超長波、あるいは振動も極微振動から超長期の振動領域まで、更に犬並みの嗅覚まで拡大してこれをラーニングと組み合わせれば、かなり世間が大きくなるのでしょう。地震の予知などもできるようになるかもしれませんネ。
      こうしてこの頃は何かというとAI、ディープラーニング。本屋の棚にもディープラーニングと書いた本がならんでいます。脳の神経構造を模倣した新しいプログラムの開発、それにコンピューターの能力が記憶容量とスピードについて桁違いに大きくなっているために、とてつもなく大きなデーターを高速で分析することができるようになったことの成果でしょう。過日、別の番組で健康寿命を長くするためにはとAIが沢山のデーターを分析し、その結果「読書が大切」「ひとり暮らしがいい」などと結論づけていましたが、昔から garbage in garbage out、ゴミを入れてもゴミしかアウトプットされないよと言われてきたものです。本当に核心になるデーターがはいっていないとよい結果が出てくるはずはありませんネ。前稿に大橋大兄がコメントを下さり、「すべてのデーターを平等に扱えるかどうかが問題」とありましたが、まさに意を得たものでした。
      昨今のAIの隆盛をみていると1980年代のニューメディアブームを思い起こします。移動手段が馬車から蒸気機関車、リニアへと変り、メディアがラジオからテレビ、衛星そしてスマホと進化してきた過程と同じで、AIも技術進化の一過程でしょう。しかしその変化のスピードがすさまじい勢いであることがこれまでの技術進歩とはいささか違っているように思います。今後もますます加速される技術革新。人間がこの変化の速さに適応していけるのか。感性の分野にしても、今のうちはヒントに役立つ程度のAIでしょうが、やがて人間の感性はこのAIにひきずられて次第に変わっていくことでしょう。そして予期しなかったバイプロダクトが出現するかも。
      人間て何だ!これは昔から哲学と宗教で人間が問うてきた分野でした。旧制高校では文科と理科とを問わず、浅はかなラーニングしかない坊やたちがコンパで口角泡をとばして論じたものでした。でもこの番組シリーズ、人間とは?その未来は?を考えさせられる楽しい番組でした。ナビゲーターを務められた松尾先生のお話の様子は、私に「もう一度若返ってこうした研究をしたら楽しいだろうナ」と思はせてくれたのでした。若いっていいですネ。
      なお前稿にこの番組が10回と書きましたが12回のシリーズでした。訂正します。
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