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  • 庭園徘徊/斎藤嘉博@クラス1955

     昔は家庭と書いて家と庭とは一体のものでした。狭い場所にも坪庭と称して石を置き、木を植え鉢を置いて、自然の営みを日々の肌で感じようとしたものでした。

      しかし都心では集合住宅が普及して核家族という形態が出来上がってから家庭は崩壊、家と庭とは別れてしまいました。坪庭は車庫に変貌。しかし自然との交流は断ちきれずに、門の脇に沢山の鉢を置いてスミレ、日日草、ゼラニウムなどを植えたお家も見かけます。「いつもきれいに咲かせていらっしゃいますネエ」と声をかけると「そう、けっこう手がかかりますがネ」と嬉しそうに。
      こうしたなかで昔のよい庭園を楽しむことが出来る機会は増えています。それらは暇を持て余している老人の徘徊には好適地。どこへ行くとも目的を定めないで駅の改札を通り、電車に乗ってから行く先を考えることが出来るのはパスモのおかげです。
      上野公園、不忍池のすぐそばに旧岩崎庭園があります。都立の庭園として公開されていますが、三菱の創設者岩崎弥太郎の長男が建てた洋館が主体で、庭はなんの変哲もない広場。建設当初の2万坪が、いまは縮小されてほぼ6,000坪。特徴と言えば庭に面して戸建の撞球室があること。$00A0 岩崎邸庭園.jpg(35%).jpg
    岩崎庭園
      明治時代の洋館としてはなかなか立派ですが、フランスのロワール地方のお城や米国富豪が持つロードアイランド州のマンションに比べれば可愛らしいものです。
      メトロ清澄白川駅に近い清澄庭園は紀伊国屋文左衛門の屋敷跡。しかし明治の時代になって前述の岩崎弥太郎がこれを取得し社員の慰安、貴賓の接待に利用したそうで、その際大きな改造を行っています。三菱系の会社にお勤めだった方々にはお馴染みかもしれません。 清澄庭園.jpg(35%).jpg
    清澄庭園
      中に池を配した回遊式の庭園で伊豆からの磯石のほか佐渡、岡山、讃岐から沢山の石が運ばれ配石されています。名物は磯渡り。池の岸に沿って水の中に置かれた石の上を飛び歩くことが出来ます。都会の真ん中にあって閑静な大変気持ちのよい庭園ですが、関東大震災後に半分が東京市に寄付されて清澄公園として開放され、その部分の池はすっかり埋められて広場になってしまいました。ちょっともったいない感じ。
      小石川の六義園は私の好きな庭園の一つです。柳沢吉保の築園した回遊式の大名庭園で、池の裏側が意外に広くゆっくりと散策の出来るところが嬉しい。この庭園も明治時代には岩崎弥太郎の別邸になっていたと言いますから、やはり三菱は大御所ですネ。同じ大名庭園の小石川後楽園は水戸の黄門さまに所縁の庭園。以前は大変よい庭だったのですが、近年この庭園の塀のすぐ脇まで高層ビルが建ち、おまけに後楽園球場の白いドームが化け物のように目に入ってすっかり落ち着きのない庭園になってしまいました。
      京都に足を運べば沢山の禅寺の庭園があることはご承知の通り。先だって嵯峨野の花園にある妙心寺を訪れました。ここは境内に桜、紅葉はなくて松だけを植えた静かなお寺。大方丈の前庭は石と苔で誂えられた禅寺には普通のお庭です。しかし寺の周りには四十余りの塔頭があって、その庭が小規模ながらそれぞれに美しいのです。妙心寺から北に歩いて10分ほど、石庭であまりにも有名な龍安寺もこの妙心寺の塔頭の一つです。妙心寺の境内で公開されている塔頭は桂春院と退蔵院の二院で、いずれも史跡名勝。退蔵院には二つの異なった趣の庭があります。
      余香苑は枝垂れ桜のあたりから湧き出す泉が滝になって池に注ぎ、小高いところにある大休庵と名づける茶室でこれを眺めながらお茶を頂きます。そして方丈の脇にある狩野元信作の庭園は白砂と石で表現された禅の世界。この院には我が国最古の墨絵で国宝に指定されている如拙筆の瓢鮎図(ひょうねんず)があります。$00A0$00A0 退蔵院余香苑.jpg(35%).jpg
    退蔵院余香苑
      口の小さな瓢箪で大きななまずをいかに捕えるかという禅問答を描いたもの。絵の上に数多くの高僧の賛(答)が書かれていますが私にはとても理解不能。諸兄はこの問いにどう答えられるでしょうか。そして“瓢箪鯰”という言葉の語源がここにありました!「占(せん)を“ねん”と読むとはこれいかに」と茶屋の娘に問いましたら、「粘を“ねん”と読むごとし」と。なるほど学がありますネエ。
      庭の徘徊もけっこう勉強になるナ、中国の庭はどんなものかナと昨年秋には徘徊の足を少し伸ばして蘇州まで行ってみました。そのお話しはまた稿をあらためて。
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