強くなった囲碁ソフト/大橋康隆@クラス1955
記>級会消息 (2012年度, class1955, 消息)
最近「モンテカルロ法」を導入した囲碁対局ソフトは、アマ4~5段程度になったという広告を見たので、昨年末にCDを購入した。
2月に油絵展示会への出展が2つ重なり、油絵制作に追われて、十分に習熟していないが、確かに強い。黒では稀にしか勝てず、白では全く勝てない。2目置くとバランスする。気力がある間に対等になりたいと思う。
以前に購入した初段位の対局ソフトは、序盤(布石)と終盤(ヨセ)は勉強になるが、中盤の白兵戦になると、めっぽう強い時もあるが、途中で想像もつかないおかしな所に打ってくることがあり、役に立たなかった。ところが最近は中盤も強くなり、おかしな手は打たなくなった。ぼやぼやしていると中盤でどんどん不利になってくる。囲碁ソフトと対戦する時は、相手の打ち方に慣れてこないと、なかなか勝てない。
ところがある日、最大の欠点を発見した。中盤で大きな「劫」(コウ)(注1)が出来て、数回劫立てをしているうちに相手に大きな劫材が無くなった。驚いたことに、隅に出来ていた大きな「セキ」(注2)に、自爆テロみたいにアタリを掛けてきた。劫の所より、こちらの価値が大きいので有難く大石を頂戴したら、「参った」という大きな表示が出た。小さな「劫」では大きな間違いは少ないが、大きな劫では価値判断を間違えることが多い。上手は形勢不利になると「劫」を挑み、下手に損劫を打たせて、形勢を挽回して逆転する。
初代本因坊算砂の辞世「碁なりせば、劫など打ちて生くべきに、死ぬるばかりは、手もなかりけり」は有名であるが、「劫」の玄妙さを端的に表現している。算砂は、織田信長からも名人として高く評価されていたが、本能寺の変の前に、御前で打っている時、珍しく三劫ができた。以後、三劫ができると不吉の前兆と言われるが迷信であり、三劫ができると永久に続くので、双方納得の上無勝負になる。
2月11日、建国の日に石田芳夫九段の囲碁セミナーを受講した。「コンピューター」のニックネームがあるが、計算に強く、形勢判断に明るい。最年少で本因坊となり、全盛期には多くのタイトルを制覇された。講義の初めに、近くコンピューターに5目置かせて対戦するお話があった。「噂によると、コンピューターは劫に弱いらしいので、劫を上手く活用したい。」と言われ、さすが日頃からよく研究されている。石田九段の著書には、「この手何目」と「ヨセ」だけでなく、「布石」でも書いてあるので、アマには判りやすい。
2月18日の朝日新聞に「棋士vsコンピューター:ガチンコ5番勝負」という記事があり、来月から第2回電王戦が始まる。将棋ではプロと対等になっている。練習では人間側が負け越しているらしい。出場棋士5名が集まってソフトの特徴を掴み、共有するそうだ。
将棋は9路盤で囲碁の19路盤より選択肢が少ない。将棋は駒自体の価値に差異があり、一手の価値評価がし易いが、囲碁は各石自体の価値が同一であり、場所の選択だけに頼るので一手の価値判断が明確でない。かつ「劫」という厄介なものがあるので、人間と対等になるには更に時間が必要である。
囲碁ソフトには、対局用の他、「定石」「布石」「手筋」「詰碁」「ヨセ」など分類した講座テキストがあり、練習問題は対戦型になっている。自分のレベルに応じて自分のペースで学習できるので、ビデオやTV講座より有効で、FDの時代から使用していた。パンダネットなどネット対局も、国際的に盛んだが、睡眠不足になるので、私は参加していない。
将棋は小学生の時に覚えたが、囲碁は大学に入学してから始めた。当時は古本屋の数少ない本しか読んでいないので進歩が遅かったと思う。現在では75才で始めて5段になった方もいる。囲碁を始めると誰でも初段にはなれる。少し本を読むと3~4段になり、世間ではこのレベルの人が多い。
5段以上になるには、感覚的な問題もあるようだ。囲碁ソフトも、漸く多くのアマを満足させる段階に達したと思う。プロと対等な囲碁ソフトは、あまり早く来ない方が、楽しみが長くて良いのではないでしょうか。
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$00A0 (写真1) 「劫」の例 | $00A0 (写真2) 「セキ」の例 |
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注1:交互に相手の石
1個を取り返し得る形を「劫」という。このままでは永久に続くので、劫を取られた方は、次の着手で別の所に劫材を探し、劫立てをしてから相手が受けてから劫を取り返すルールが設定されている。(写真1「 劫」の例)
注2:「セキ」とは、どちらが打っても、打った方が取られる形で、双方ともその場所は打たないので、陣地は0と計算する。(写真2$00A0 「セキ」の例)
2013年3月1日 記>級会消息
将棋のソフトは今やプロの高段者のレベルに達しています。
この3月に三浦八段(今期羽生三冠と名人挑戦権を争ったA級2位の強豪)以下中堅・若手5人のプロがソフトと対戦しますが、勝敗の予断は許しません。最近亡くなった前将棋連盟会長の米長永世棋聖は、ソフトに不覚の一敗を喫しました。
また将棋界では、対局結果のデ-タ・ベ-ス化が進んでおり、殆どの棋士はパソコンを使って研究しています。
3月1日のA級順位戦最終戦では、之まで頑固にパソコンを使用してこなかったが、最近漸く採用し始めたばかりの郷田真隆棋王が、根っからのパソコン派・若手の強豪・渡辺明竜王と対戦しました。郷田棋王は一方的に攻められて、夕刻には金を渡せばあと一手で詰むと云う局面になり、解説者も渡辺の勝ちと云っていた勝負に、逆転勝ちしました。しかし、郷田棋王自身は多分「逆転ではない。竜王の攻めは切れていたのであって、最初から自分の勝ちである。パソコンよりも自分の読みの方が奥深い。」と思っているのではないでしょうか。
人間とソフトの勝負は、まだ暫く続きそうです。
コメント by 寺山進 — 2013年3月2日 @ 22:21
本稿を拝見して新年雅叙園での貴兄の「次の一手正解」の一つの源がわかりました。小生も数年前に碁のソフトを購入し時折遊んでいますが、世界最強という触れ込みにかかわらず2級ぐらい腕前、びっくりするほどの良い手を打つかと思うと戦いの最中にまったくそっぽの手を打ったりします。手順はプログラムで決められたとおり。その日の気分で「こちらに打とうか」なんていうあいまいさがありませんから、そっぽの手でも再現性は確実。こちらが同じ手を打てばパソコンもまったく同じ手を打ってきます。確率が導入されたとするとその辺に変化がありそうに思います。パソコンの進歩は驚異的ですからいずれは名人戦に参入するようになるかもしれませんネ。私もソフトを更新してみましょう。
コメント by サイトウ — 2013年3月4日 @ 12:19