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  • 「はやぶさ」60億キロの旅(その3)/大曲恒雄@クラス1955

    5. 「はやぶさ」は生きていた
     2005/12/9以降「はやぶさ」との連絡が取れない状況が続いていた。

    (資料2)によると
    『長野県臼田の64mパラボラアンテナが3億キロ彼方の「はやぶさ」をとらえることができるのは1日に6時間。そこで、6時間ずっと呼びかけ続けるコンピュータのプログラムを作り、送信を続けたのである。それはまるで心肺停止状態に陥っている人のほっぺたを叩きながら「わかるかい、わかるかい」と、1日に6時間延々と声をかけ続けるようなことだった。』
     (資料2)山根一眞:小惑星探査機 はやぶさの大冒険(マガジンハウス2010/7) 

    (資料4)に「不死鳥の声が聞こえる」と題する一節がある。
    『運用担当者は気持ちを切らさずに丁寧に仕事を続けていた。途方もなく大きなガラス戸を相手に精一杯手を広げて拭き掃除をするように、臼田のアンテナは静かに虚空を探っていた。
     2006年1月23日それは突然やってきた。宇宙の彼方から助けを求める“声”が聞こえたのである。それは思いの外に強い電波であった。 それは溺れている人が苦しい息の中でも顎を挙げ、手を振って助けを求めるように、あらん限りの力を振り絞って送り出された最期のメッセージであった。・・・・・「はやぶさ」は生きていた。』
     (資料4)吉田武:はやぶさ(幻冬舎新書2010/6第2刷)

     こうして「はやぶさ」との交信が一応復活したが、「はやぶさ」は瀕死の状態だった。また、通信状態も非常に悪いため「はやぶさ」の状態を把握するのも容易ではなく、気の遠くなるような作業が根気よく続けられた。その結果、3月初めになってやっと「はやぶさ」の状態、位置、速度などが分かった。
    再び(資料2)によると
    『長いこと仮死状態にあり、やっとうめき声だけ出せるようになった重体の「はやぶさ」は、集中治療室での懸命な手当のような努力によってビシッと地球を向き奇跡的に蘇った。』

    6. 帰路につく
     化学エンジンが全滅したために姿勢制御はキセノンガスの生噴射で行うしか方法がなかったが、それを続けたのでは肝心のイオンエンジンの燃料が足りなくなり地球に帰れなくなってしまう。このジレンマを解決したのが太陽の輻射圧を姿勢制御に利用する奇策である。それまで太陽の輻射圧は姿勢や軌道に対する外乱でしかなかったが、窮すれば通ずでこれを積極的に利用しようということになり、結果見事に成功して地球帰還の目途が立った。
     次に述べる資料採取器の移動のためには電池の電力を必要。しかし、直列接続されたリチュームイオン電池11コのうち4コが不良となっていたため残り7コを安全にフル充電できるかどうか不安があったが、電池メーカーの協力を得て非常対策の手順を見出すことができ成功した。

     2007/1/17 試料採取容器の移動成功 
    地球帰還時「はやぶさ」は帰還カプセルだけを切り離してオーストラリアの砂漠に着地させる。「星のカケラ」はこの帰還カプセルの中に納めた試料採取容器に入っているはず。所が、イトカワ着地直後にトラブルがあったため試料採取容器はまだ「はやぶさ」本体にあり帰還カプセルに移してなかった。この移動のためには形状記憶合金を使った部品を暖めて動かすなど電池の電力が必要であったが、前項で述べたようにリチュームイオン電池の充電が完了していたので実施に踏み切れ、見事に成功した。

     2007/4中旬 やっとイトカワの軌道から離脱し、4/25地球へ向かって出発した。 

     2009/11/4 又もや大ピンチ
    イオンエンジンDが遂に寿命を迎えて停止。残されたエンジンはCだけ、そのCも性能が低下していたため出力が足りず、計算上地球帰還は2013年になってしまう。しかも、寿命に近づいていた。そこで起死回生の秘策登場。打ち上げ直後に不具合を起こして停止していたエンジンAの中和器と、帰還を始める直前に不調になったエンジンBのイオン源をつなぎ一つのイオンエンジンとして利用することになった。
    イオンエンジン開発担当の国中教授によると
    『万一に備えて用意しておいた回路が、「はやぶさ」の命を救いました 』
     (資料1)探査機 はやぶさ 7年の全軌跡(Newton 別冊2010/7)

     2010/3/27 イオンエンジンによる第2期の動力飛行が無事終了。地球からの距離2700万キロ、このまま飛行を続ければ地球の上空を間違いなく通過することができる見通しがついた。
     2010/5 地球から1600万キロの位置に接近

     2010/6/3~6/9 軌道の精密誘導が終了
    着地場所はオーストラリア・ウーメラ砂漠の数百メートルの範囲に絞られた。6/9の時点ではまだ月の5倍も遠い距離にあるのに、これだけの精度で予測ができる軌道制御技術は素晴らしいと言えよう。 

      ~「はやぶさ」60億キロの旅(その4)~ に続く

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