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  • がんの話(その1)/大曲恒雄@クラス1955

    学士会会報の最新刊に「がんのひみつ」と題する中川恵一氏の記事が出ている(資料1) 。また、同記事にも紹介されているが、中川氏の書かれた同じタイトルの著書が出版されている(資料2)。


     
     (資料1)学士会会報 No.880 2010-Ⅰ
     (資料2)中川恵一「がんのひみつ」朝日出版社(下写真)

     がんのひみつ.jpg

    CD/DVDのアルバムと同じ
    大きさ、珍しいサイズの本で
    69項目の「がんのひみつ」
    つまり「知られていていいのに
    殆どの日本人が知らないがん
    の常識」が記載されている。


    がんは非常に身近な存在になっているがその正体がよく分からず、もどかしさのようなものを感じていた所だったのでこれらの記事は大変参考になった。以下、メモ風にまとめて紹介する。

    (1)がんとは何か?
    ・我々の体は60兆個の細胞から形成されているが、毎日その1%にあたる6千億個の細胞が死に、その死んだ分は細胞分裂によって補われている。
    ・細胞分裂とは細胞の設計図つまりDNAを正確にコピーしてそれを二つに振り分ける作業で、それを体内で毎日6千億回行っている。
    ・しかし細胞は1mmの1/100くらいの大きさしかなく、しかもその中に入っているDNAは紐状で長さが2mにもなるため完全にコピーすることは大変な難作業である。
    ・従って一定の割合(百万回に1回と言われている)でコピーミスが起こり、毎日数億回突然変異が起こる。ミスした細胞は基本的には死んでしまうが、稀に死なない性質を持った細胞が誕生することもあり、これががん細胞である。
    ・60年前に死亡した患者のがん細胞が生きていて今でも世界中で実験に使われており、もし人類が生きていれば1万年後でも使えるはず。不老不死の夢は皮肉にもがんという形で実現されたとも言える。
    ・がん細胞は1日に5千個誕生しているが、免疫細胞(リンパ球)がそのがん細胞を異物と判断して殺している。しかし、がん細胞は「元自分の細胞」であるために異物かどうかの判断は簡単ではない。
    ・もし、免疫細胞が見逃してひっそりと生き残ったがん細胞があれば分裂を繰り返して大きくなる。30回分裂を繰り返すと1cmくらいになる。乳がんの場合では1cmの大きさになるのに15年かかる。
    ・我々の細胞は死んだ分だけ細胞分裂によって補われるが、がん細胞は死なないため時間と共にどんどん増える。(資料2)では「暴走機関車」と名付けている。
    ・がん患者の死亡原因は要するに栄養失調で、本来正常な細胞が必要とする栄養をがん細胞が横取りしてしまうから。

    (2)日本人とがん
    ・日本は世界一がんの多い国、「がん大国」である。それなのに日本人は
    がんのことを知らない。
    ・日本では2人に1人ががんになり、3人に1人(65才以上では2人に1人)ががんで亡くなる。
    ・14年前まではがんの死亡者数は日本もアメリカも同じくらいだったが、その後アメリカは減り日本は増え続けているため日米の格差は毎年広がっている。
    ・サミット参加先進8カ国のうちでがん死亡が増え続けているのは日本だけ。

    (3)年齢とがん
    ・がんは年齢と共に増える。そして、がんができてから患者が亡くなるまでの期間は20~30年。
    ・30才くらいからがんが増える。高齢になればがんができにくいという話は誤り。
    ・長生きするとがんが増えるのは突然変異が蓄積されるのと、免疫細胞の働きが衰えるから。
    ・男性のがん死亡が多いのは喫煙率の高さなど生活態度の差。タバコが無くなれば男性のがんの4割が無くなる。
    ・日本人の平均寿命が世界一であるということも日本でがんが多い要因の一つ。今でも平均寿命40才くらいのアフリカの国では殆どがん患者がいない。

    (4)がんで死なないために
    ・がんで死なないためには「予防」と「早期発見」が非常に重要。
    ・まず、がんにならなければ良いわけで、それにはタバコを吸わないことが
    一番。喉頭がんの96%、肺がんの72%はタバコが原因。
    ・(資料2)に載っている「がんになる確率を下げるための12カ条」
     1. バランス良く栄養を    2. 毎日、変化のある食生活を
     3. 食べ過ぎを避け、脂肪は控えめに  4. おいしい酒をまあほどほどに
     5. タバコは吸わない   6. ビタミンと繊維質のある食べ物を
     7. 塩分と熱いものは控えめに   8. 焦げた部分は控えめに
     9. かびの生えたものには注意   10. 日焼けは控えめに
     11. 適度に運動を    12. 体を清潔に
    この12カ条を積極的に実行すればがんの約60%(禁煙で30%、食生活の工夫で更に30%)が防げるだろうと考えられている。

    ・「早期発見」とは調子が悪くなったら直ぐ病院に行くことではなく、がん検診を受けること。症状がない時から定期的にがん検診を受けることが必要。
    ・大きさが1cm以下の細胞は小さ過ぎて、がんであると断定するほどの質的な診断ができない。しかし、がん側から見るとその細胞は既に老域に入っている。
    ・乳がんの場合、「早期」は2cm以下と定義されているが、1cmが2cmになるのに3回の分裂で1年半しかかからない。つまり20年という乳がんの一生の中で、この1年半の間に検査を受ければ早期乳がんとして発見できる。
    ・厚生労働省では乳がんの他、胃がん、子宮頸がん、肺がん、大腸がん、肝臓がんについてもがん検診の受診を勧めているが、日本では受診率が非常に低い。結果として早期がんが見逃され、がん死亡者が増えている。

    ・十数年前のある日生まれた5千個のがん細胞のうちの1個が免疫細胞の攻撃を逃れて生き残りひっそりと体内の某所で分裂を繰り返して来たが、遂に百万個の固まりにまで成長し大きさが1mmくらいになった。この後も倍々ゲームで分裂を続けやがて“見える”ようになるが、「暴走機関車」の別名通りある時期を過ぎると手に負えなくなる。
    ・がん細胞と、宿主である人間との戦いについては次回取り上げることとしたい。

    3 Comments »
    1. 中川さんの記事は私も読みました。大曲さんはその要点を上手に書かれています。同じ会報の食品不安の時代(唐木英明先生)の記事にも“「原八分目にして余計な活性酸素をつくらない」「タバコを吸わない」「軽い運動をする」だけでがんになる確率は半分から三分の一に減る”とあります。小生の胃癌が比較的に軽くてすんだのはやはり定期検診による早期発見、それに学生時代に結核をしたためにタバコをのまなかったのがよかったのだろうと思っています。発見とオペに携わるお医者さまの技量も大きな要素です。小生子供の頃から喘息があって成人後も折々悩まされたのですが、胃癌の手術後この喘息がぴたりとなくなりました。理由はわかりません。医者も首をかしげています。でもこのおかげで山歩きなどが大変楽しく出来るようになりました。人生なにが幸いになるのか分かりません。あまり心配しないで楽しく過しましょう。

      コメント by サイトウ — 2010年1月18日 @ 09:40

    2. 昨日コメントを書こうと思ったのですが、元気が出ませんでした。今日は私の77才の誕生日で本来なら喜寿の祝いですが、早朝から病院で下剤を飲んで大腸カメラの検査を受けてきました。昨年11月末の人間ドックで引導を渡され、やっと1月4日に消化器内科の順番が来て、早速、胃カメラ、肝臓エコー、肝臓CTを受け、本日大腸カメラで、1月25日に総合判定が下されることになりました。最近、親しい友人達が、胃癌や大腸癌でこの世を去ったり、手術後に苦労をしているのを知っているので、気が重くなります。
      消化器以上に悩ましいのが、前立腺で、60才の検診で肥大と診断され、近くの病院に行ったら直ちに手術しましょうと言われ、怖くなって逃げ帰りました。改めて、脳発作で55才の時に勤務先から救急車で運ばれて九死に一生を得た病院に行きました。ここでは日常生活に支障なければ手術はしないと言われました。以来薬を飲み、最近は3ケ月ごとにPSA検査を受けていますが、4~6の間を鋸ぎり状に変動して悩ましい限りです。この歳になると手術はしないと言われています。最近重粒子線が良いことを知りましたが、設備が高価なため300万円以上必要です。年金生活者は救われません。今まで関心の薄かった癌が急速に身近になってきています。癌に関する情報の解説を大いに待望しています。

      コメント by 大橋康隆 — 2010年1月18日 @ 20:50

    3. 大橋様へ 喜寿祝いの誕生日が検査と重なって台無しとは残念でした。1/25の総合判定が深刻でないといいですね。
      小生は毎年人間ドックを受けていますが、2005年暮れのドックで潜血反応(+)と出たために翌春初めて大腸内視鏡検査を受けた所ポリープが多数見付かり一挙に6コ切除、そのうちの1コが前がん症状だったという“がんとのニアミス”体験をしました。
      小生の場合も友人、知人ががんになったというケースが沢山あります。また最近は有名人のがんとの戦いが頻繁にマスコミに登場します。
      日本人は「2人に1人ががんになるほど長生きするようになった」という現実を真正面から見据えていく必要があるということでしょう。
      所で、「がんの話(その2)」でも触れるつもりですが、「週刊東洋経済」最新号(2010/1/23)に「ここまで治る!先端医療」という特集記事が出ていて、がんについては粒子線治療、ロボット手術、新規がん治療薬、がんワクチンなどについてかなり詳細に解説されています。
      ご参考まで。

      コメント by 大曲 恒雄 — 2010年1月19日 @ 18:00

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