カーボンナノチューブ/斎藤嘉博@クラス1955
記>級会消息 (2009年度, class1955, 消息)
先月ご報告した天文展示の隣に原子、分子を知るための展示スペースがあります。そこにある黒鉛とダイヤモンドの分子結晶模型。
いづれも炭素の同素体であることはご承知のとおりで、同じ元素から出来ていながらどうしてこのように顔が違うのかと中学の時に考えたことを想いだします。
展示してある結晶構造模型を見ると黒鉛は炭素が六角形に結ばれた平面層が積み重なった構造、一方ダイヤモンドは炭素の4つの手ががっちりと組まれたハシゴ状。4Cをめぐってさまざまな怨念の歴史を作ったこの宝石ですが、硬度が著しく高いのもなるほどと頷けます。
さらにその隣にフラーレンとナノチューブ。これらはこの科博に来るまで私は知らなかった物質です。フラーレン60(C60)の分子は丁度サッカーボール。20面の正六角形と12面の正五角形がからんだ結晶です。この形は幾何学の分野では切頭20面体(truncated icosahedron) | |
カーボンナノチューブの
分子模型 |
と呼ばれるもので、5枚の正三角形が集る正20面体の12個の頂点をこの多面体の軸に垂直な面で切断してできるものです。2001年の8月、鎌倉美術館でバックミンスター・フラーという建築家の展覧会が行なわれました。さまざまな骨組みの建築模型を面白く観て回ったのでしたが、フラーレンがこのバックミンスター・フラーの建築と似ているところから名付けられたものと知ってウーンなるほどと感激したものです。この同素体は英国のクロトーらによって1990年に初めて合成されたものですが、それより20年ほど前の1970年に京都大学の大澤映二博士によって存在が予測されていたそうです。ここの展示にはC60、C70、C84と3種のフラーがあります。構造が違えばその性質も違うのが当然。これらはベンゼン溶液に溶かすとそれぞれ紫、茶褐、淡黄と色が異なっています。
そしてさらにその隣に置かれているのがこれも炭素の同素体であるカーボンナノチューブの模型。これは1991年に飯島博士によって発見されたまだあたらしいもの。細くて強く電気を通すが、その構造によっては半導体になるとのこと。実質的な利用はこれからの研究に委ねられているようですが、丁度魚を獲る簗のような形、あるいはネズミ捕りのような形をしたこの分子模型を観ていると、将来体内に入れて毒素、がん細胞などをしっかりと捉える籠になるかも知れないなどと素人の妄想が浮かびます。飯島博士はその業績で今年度の文化勲章を受賞されました。建築と数学と美術の智恵がからんだきれいな分子構造は、自然界の巧の技であるように思えます。
それにしても137億年という時間と230万光年の距離に代表される広大な宇宙と隣合わせに数ナノの分子が作るミクロの世界を置いた展示取り合わせの妙は見事で、この間に置かれたボランティアの机(ディスカバリーポケットと呼ばれています)に坐っていると宇宙に果てがあるはずはないし、ニュートリノよりももっともっと小さなものがあるのだろうという感を深くするのです。
2009年12月1日 記>級会消息
カーボンナノチューブ(以下CNTと略す)の将来有望なアプリケーション例として最新刊のNewton(*)に「宇宙エレベーター」の記事が出ているので紹介する。
(*)「エレベーターで宇宙へ行こう」Newton 2010/1 (株)ニュートンプレス
静止衛星は赤道上空に静止しているのだから、そこからケーブルを地上に垂らしてエレベーターで行き来できないだろうか?
この途方もない宇宙エレベーター(軌道エレベーターとも呼ばれる)構想は永い間SFの世界の物語だったが、近年その実現への光明が見え始め研究熱が高まっている。
これまでの致命的な問題点は静止衛星と地上とを結ぶケーブルに必要な素材が見当たらなかったことだったが、CNTの発見が突破口となった。
因みに鉄の場合、ピアノ線のようにしごいて強くした鋼鉄でも50Km以下で切れてしまうとのこと。CNTでは静止軌道と地上とをつなぐのに十分な強度のケーブルが得られることが理論的に確認されているそうだ。
これまで宇宙に行く手段として専ら使われていたロケットは、打ち上げ時の重量の大部分が燃料であり効率は良くない。他に、打ち上げコスト、打ち上げ時の大きな加速度、大気汚染など問題も多い。
もし将来宇宙エレベーターが実用化されると、普通の人間が気楽に宇宙に行けるようになるものと期待される。
コメント by 大曲 恒雄 — 2009年12月2日 @ 10:39
楽しい、またエーッ?という発想です。でも36,000Kmをエレベーターで上がるなんてすごいスリルでしょうネ。
コメント by サイトウ — 2009年12月9日 @ 16:25
36,000Kmと言えば地球一周に近い距離! 確かにスリル満点でしょうね。
(社)宇宙エレベーター協会(*)の資料によると、バンアレン帯の下、地上1200Kmあたりに低軌道ステーションと称する中継基地が設置され、観測・実験・観光用の設備が設けられる計画になっているようです。
第一段階としてはここまで上がって宇宙滞在を楽しみ、次の段階で静止軌道を目指すということになるのかも知れません。
(*)2008/4に宇宙エレベーター協会が発足、2009/4に社団法人となった
なお、アメリカでは1999年NASAのマーシャル宇宙飛行センターで初めての宇宙エレベーターに関するワークショップが開かれ、その後数回国際会議が開かれているそうです。
余談ですが、12/9の朝日新聞によると世界初の民間宇宙旅行用宇宙船が最近公開された由。1回2時間のフライトの中で母機から切り離されると自前のロケットエンジンで高度110Kmまで上昇、数分間の無重力状態を体験できるそうで早ければ2011年にも初の商業飛行を行う予定。代金は訓練費用を含めて1,800万円、世界中から300人の予約があり日本からも10人が申し込んでいるとのこと。
将来宇宙エレベーターの開発が具体化し、初乗り希望者を募集する時はすごいことなるかも・・・。
コメント by 大曲 — 2009年12月11日 @ 18:05
詳細なコメントありがとうございました。私の友人のファッションデザイナーは宇宙旅行のためのファッションデザインをしています。昨年東大2号館のホワイエでそのファッションショーがありました。宇宙がずいぶん身近になっているようです。
コメント by サイトウ — 2009年12月13日 @ 23:12