ものづくりの達人と遊ぶお正月/斎藤嘉博@クラス1955
記>級会消息 (2008年度, class1955, 消息)
今年も正月3日から上野に出て子供たちと一緒に“桐のペン皿”を作るイベントに参加しました。
博物館では小中学生の科学への関心を高めるために、正月休み夏休みにサイエンススクエアと名付けて、たとえば電気学会の主催で磁石や簡単なモーターの制作指導があったり、大学生が振子の実験製作指導をしたりします。昨年の正月、私は「技術の達人によるものつくり教室、金銀砂子画」のコーナーでお手伝いをしました。今年の正月は“偏光板万華鏡を作ろう”、“アンモナイトのバッチ作り”などのテーマがあるなかで、私は美術指物師の二代目美佐五郎こと中西さんが指導される「桐のペン皿」作りのお手伝いを選びました。予め用意された粗作りの桐の小箱を小さい鉋、大きい鉋を使って形を整え、紙ヤスリで角を落として仕上げます。一日で60名ほどの子たちが参加しました。おぼつかない手付きで仕事をしていますが、終わったときの子供たちの目にはいままで知らなかったことをやりとげたという快い輝きが見られます。
いまの子供たちは鉋なんて見たことも触ったこともありません。それどころか切り出し、鑿といったむきだしの刃物は敬遠だそうです。怪我をすると面倒なことになりますから。私たちの小学校の頃は怪我も成長の過程ではありうるという認識でした。科学や技術、いや全ての教育の基本は経験、体験でしょう。体験をしない知識は結局身につきません。私たちの大学時代も午後のほとんどの時間は実験に割り当てられていて、田宮さんがいろいろと世話をして下さりながらコイルを巻いたり、アンメーターやコンデンサーの故障に悩まされたりしたものでした。もうひとつの体験の場は壊れたものの修理でした。いまの機械は壊れるとユニットの交換。内部がどうなっているのか知るよしもありません。真空管を取替え、半田付けをするというなかで、ものの仕組みを理解してきたのだと思います。ということでこうしたお正月のイベントは子供たちにとって大変貴重な体験の場なのです。
過日お誘いに応じて中西さんの工房にお邪魔しました。清洲橋通りからちょっと入ったところにある10坪あまりのアトリエは半分以上桐の素材と工具で一杯。桐材は自ら秋田に出向いて木を吟味し地元の方々と交渉し、そして伐り出しを行なうのだそうです。こうした昔かたぎの工芸師の姿は下町にまだ息づいています。江戸切子、江戸簾、江戸刺繍、江戸木彫刻などなど。都合だけで1月12日を成人の日にするという、歴史と文化に無頓着な政府に絶滅危惧種の伝統工芸への支援を期待することはとても無理でしょう。草の根の地道な努力こそが必要で、工芸の達人にじかに教えを得た体験は、将来いつかきっと子たちの科学への芽を伸ばすことになり、さらに伝統工芸を守る力になるに違いないと思うのです。
2009年1月12日 記>級会消息