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  • 忍び寄る老い/寺山進@クラス1955

                   =時差ボケと老人ボケ=
     6月下旬に米国西海岸を旅行した。昨年はウイ-ンとパリを旅したが、一年ぶりの海外旅行だ。  


     現役時代は気軽に海外出張をこなしていたが、年々時差がつらくなってきた。
     今回の旅行中感じた時差ボケは、肉体的な症状つまり、睡眠不足や胃腸の具合のズレなどにとどまらなかった。時により、いわゆる老人特有のボケ症状を呈するのである。状況認識力の欠如、それに対応する論理的思考力の欠落である。
     
     一例として、アメリカ国内線機内での出来事を書いてみよう。
    キャビン・アッテンダントの女性(昔はスチュワーデスという優雅な呼び方だった)が、飲み物は何が良いか聞いてくる。もう、何百回も経験してきて、問題が起る筈も無い。・・・が、「コカコーラ」と言ったら「アイ?アイ?」とへんてこな返事が返ってきた。
     (えっ?えっ?  アイ?アイ?って・・・・・どういう意味だろう?)
    とっさに訳がわからなかった。こんな簡単な会話すら通じない状況が腹立たしく、何故か頭にきた。(アイアイ、アイアイ、オサルさんだよ・・・って歌があったなあ・・・)と妙な事を考えながら、
     「アイ、アイ、とはなんぞや?」と聞いてみた。
    彼女は一寸ビックリした様な顔をして、ジャーの氷をガチャガチャかき回した。ああそうか、そうか。氷がいるかどうか、聞いてきたのか。
     「オー、アイシー。ノーアイス、プリーズ。」
    こうしてやっと、コカコ-ラを飲む事が出来た。 その後、我ながら可笑しく、又不思議な気持ちになった。これが時差ボケのボケ症状だ。同時に、老人ボケといわれるものも、こんなものではないのかと思った。
     通常の日常生活でもこういう状態が、段々ふえていく。いずれは、完全にそうなる。時差ボケでシミュレーションしておくのも悪くないかもしれない。笑い事ではないのである。   
                     平成二拾年七月参拾壱日 寺山進

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