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  • 新任のご挨拶/廣瀬和之

    平成23年4月1日付で電気系工学専攻の併任となりました、宇宙科学研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)の廣瀬和之と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

    私は早稲田大学大学院理工学研究科前期博士課程を1983年に修了して、日本電気(株)基礎研究所に勤務いたしました。その頃、世界で研究開発が活発になり始めた分子線エピタキシャル(MBE)成長の研究に従事し、InP基板上に高品質のGaInAs/AlInAs/InP HEMT構造を形成して、当時世界最高速のFETを実現することができました。その後、MBE成長法を駆使して、ヘテロ界面の格子不整合を利用する歪超格子の電子・光学的物性の制御や、金属/半導体ショットキー障壁形成機構の解明などの基礎研究を続けました。このような半導体界面の研究が縁で、1995年に文部省宇宙科学研究所に助教授として着任しましたが、宇宙研で研究テーマとして選んだものは、わずか1nm厚となったゲートSiO2膜とSi基板が接する、LSI動作の要であるMOS界面でした。MOS界面は長年にわたって研究されていますが、現在ナノレベルで制御されたこの界面を対象とすることで、微細化したMOSFETの動作の諸問題を半導体界面物理に立脚して研究することができます。私は、界面の原子構造ならびに電子状態とデバイスパラメータとの関係を、X線光電子分光などの各種実験手法および第一原理分子軌道計算を用いて研究しています。

    職務として科学衛星の電源系の開発を任され、これまでに科学衛星や探査機など7機の電源系コンポーネントを開発し、内之浦宇宙空間観測所でのM-Vロケット打ち上げ実験に参加して参りました。小惑星探査機「はやぶさ」の開発では、化合物半導体三接合セルを初めて採用した太陽電池パドルと、リチウムイオン電池を初めて採用した搭載二次バッテリーを開発して、惑星間空間に到達できるだけの小型軽量化の実現に貢献しました。現在は、我が国初の水星探査機の開発に関わっています。

    さらに、半導体の研究と衛星コンポーネントの開発を融合させて、科学衛星に搭載する耐放射線強化LSIの研究開発もしております。 デバイシミュレーションとSpiceシミュレーションが混在する3次元デバイス回路混在シミュレーションおよび重イオン照射試験を駆使して、民生SOIプロセスを利用した世界トップレベルの放射線耐性を持つ、次期科学衛星のためのMPUを三菱重工(株)と共同開発いたしました。民生分野のLSIも高集積化・微細化が進むにつれ、放射線の問題が、航空機や原子力機器だけでなく、きわめて高い信頼性を要求されるハイエンドサーバーや、誤動作が人命にかかわる建設機械、自動車、医療用機器などにおいても、地上に降り注ぐ中性子線によるソフトエラー問題として危惧されています。今後は、これまでの経験を生かして、伝統ある東大電気系で勉学に励む学生達に、人々の暮らしの安全を支える“セキュア・エレクトロニクス”について、物性・デバイス・回路の観点から教育・研究の指導に取り組んで参りたいと考えております。ご指導・ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
    (宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所准教授)

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