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  • 第70回同窓会総会報告/新谷洋一

     平成18年度の電気系同窓会総会が7月1日に開催された。参加者数は140名を超え前年度に比較して倍増、総会出席率の長期低落傾向に一定の歯止めをかけられたとの評価をいただいたようであり、企画に携わったものとして報われる思いである。まずご参加いただいた方々や一緒に準備を進めて下さった関係者の方々に感謝をしたい。自画自賛を顧みずにあえていうならば、これは関係者の方々と危機感を共有し、平成17年秋から周到な議論や準備を重ねた結果だと思っている。以下では昨年度の総会の企画・実行にあたり関係者がなにを思い、どう考え、いかに進めてきたのかについて、取りまとめをさせていただいた立場からやや独断と偏見も交えてその経緯をご紹介したい。

     平成17年に同窓会の理事を仰せつかった手前、総会に出席するのは義務と考え、武田先端知ビルにて開催された同年の総会に初めて参加して驚いたのは、壇上で会を進行されている先生方を除き、参加者の中に知っている方がほとんどいなかったこと、クラスメートさえ誰もいなかったことである。参加者の大半はシニアの方々のようであり、50代前半である私でさえ、若造がよく来たな、といった雰囲気すら感じられた。出席者は前年度を下回る約70名で、長期低落傾向が続いていた。総会成立には会員の1%に相当する60名の出席が必要とのことで、総会後の理事会では崖っぷちの迫っていることが指摘された。また、同窓会費の納入率も低下しており、いずれ財政的問題も懸念されることが指摘された。

     というわけで、同年の総会にて新しく設けられた企画理事の立場から、同窓会総会の活性化策を考えることになった。ところで、「総会」は基本的には同窓会活動の一部でしかなく、全体がうまくいっていれば総会もうまくいくし、総会がうまくいけば全体にもよい影響を与えるという関係のはずである。さらにいえば、大切なのは「総会」ではなく、むしろ同窓会活動そのものの活性化や、同窓会の潜在的にもつ力をさらに引き出すことである。そして、同窓会会員の関心事は巣立った学科がよい人材を育成し、研究によって科学技術の進歩への貢献をしているかであり、自分が東大電気の卒業生であることを誇りに思えるかではないだろうか。さらに、有能な後輩が自分の会社に来てくれるかも現実的な関心事である。

     その意味で、電気の先生方から伺った内容をもとに、最近の同窓会や学科、学生の状況について整理すると、以下のようになる。
    1) 同窓会活動の長期低落化=価値の低下

    • 同窓会総会の参加率が低下している。→このままでは成立さえ危ぶまれる状況になりかねない。
    • 同窓会会費の納入率が低下している。→財政的にも好ましくない。

    2) 学生の連帯意識の低下

    • クラス会が成立しない。卒業時、同窓会の価値はなおさら実感できない。→チームワーク、リーダーシップなど、社会人として望まれる資質の育成機会が減少し、結局卒業生が社会からの期待に応えられなくなる。

    3) 電気系学科の教育・人材育成力の低下

    • 学科人気ランクが低下し、学部進学時に定員割れが発生、学科学生全体の学力レベルが低下している。→卒業生の学力レベルも低下、社会からの期待に応えられない。

     上記のような同窓会や学科の状況は、下記のような環境に置かれている大学、企業、学生のそれぞれにとって好ましくない影響をきたす。
    4) 大学と教職員の置かれた環境

    • 国立大学法人化に伴う経営基盤強化の必要性:競争的資金の獲得、大学発ベンチャーなどを通じた大学発技術の事業化、知的財産の事業化
    • 科学技術創造立国という国策に沿った最先端研究の強化:他大学に対する特長づけ、先端企業との連携
    • 大学としての社会貢献への要請:社会に役立つ研究とその成果の企業を通じた実現、社会ニーズに合った人材育成(学生の教育)と社会人再教育

    5) 企業と就職した卒業生の置かれた環境

    • グローバルな競争や国内のデフレ圧力に伴う価格競争環境下での企業収益の確保:先端技術やアイデアをコアにした優位化と技術開発のスピードアップが生残りのキー
    • 景気回復の足どりが不確かな中、各企業は事業の選択と集中を進め、研究開発も短中期の事業貢献に重きを置き再編:萌芽的研究や革新的なアイデアの創出を産学連携やアライアンスに期待
    • 自然資源に乏しいわが国が持続的に繁栄していく基本は、科学技術を担う人材:リーダーシップをとれる人材の育成と、社会全体の中での人材流動性向上が課題。優秀な後輩のリクルートも現実的な課題

    6) 学生の置かれた環境

    • 個人主義の流れの中で、同期としての仲間意識やネットワーキングの価値に対する認識が希薄化してきている。東大の学生はその傾向が強いともいわれている。
    • 3学科体制により学生数が120名超と増大し、クラス会形成が学生の手に負えなくなったといわれている。
    • 多様化する価値観の中で、自分に合った将来性のある企業、職場への就職:ほしいのは、先輩を通じて得られる生きた就職情報

     こうした状況を踏まえたうえで、同窓会に対する期待や、新たに果たせる役割がなんなのかを考えようとのことである。そこで、平成18年1月の理事会では、総会活性化だけでなく、同窓会全体の活動や在学中からのクラス会活動の活性化、さらには優秀な駒場学生の電気系学科進学を促進するのに効果的であるような、包括的かつ拡張性のある施策という観点で提案を試みた。

     結論からいえば「産学連携に欠かせない同窓会」とのコンセプトを打ち出し、浸透できないかとの提案であった。なぜかというと、上記1)~3)のうち、特に深刻なのは、3)の学科の人気ランク低下に現れている、学科そのものの凋落であり、それを打開するうえでは産学連携というスコープの大きな対策が必要と考えたからである。この考えの背景を以下に簡単に述べる。

     学科の人気低下は電機産業に対する学生の評価をそのまま反映しているといえる。進学振分けにあたっては、就職のことを考慮して選択するのが普通であろうから、電機産業に魅力がなければ電気系学科も選択してもらえるわけはない。実際、金融業などとの比較において電機産業についてよくいわれるのは、長時間労働、低賃金、処遇の問題などがある。昨年4月の日経ビジネスオンラインに掲載されたアナリストの若林秀樹氏による記事には、エンジニアを使い捨てにするとも指摘されている。これらに加えて懸念されるのは国内電機関連企業の国際的な競争力の低下や新事業創生力の不振である。米国では80年代のマイクロソフト、Intel、90年代のCISCOやYahoo、2000年代のGoogleなどに象徴されるような新事業の創生が続いていて、これら企業は独占的なコア技術に支えられて莫大な利益を上げているだけでなく、社会にも大きな貢献をしている。一方わが国では、80年代のDRAM、2000年代の携帯電話、デジカメや薄型TV などの新産業で各社がグローバルにも貢献しているといえようが、おしなべて厳しい価格競争にさらされる構造にあるため、収益率は期待にはほど遠い。働けど働けどわが暮らし楽にならざりし、といった業界の状況は敏感な学生さんはよくわかっているであろう。

     そこで、折りしも科学技術創造立国を目指した産学連携が叫ばれる流れに沿って、「産学連携に欠かせない同窓会」を念頭においた新しい施策を打ち出してはと考えるに至ったわけである。つまり、最終的には電気系学科とその卒業生の所属する企業からなるグループが、同窓会員を窓口としてより緊密につながる(ネットワーキングする)ような状態をつくることである。このネットワーキングの目的は、企業の支援による学科の教育・研究支援、共同研究などによる研究開発力の強化、卒業生の適切な就職支援、企業人の再教育支援などである。これによって、学科の凋落を食い止め、新しい時代に合った姿への変身を支援し、その結果、企業も学科による研究・人材育成の果を享受するわけである。もちろん、上述したわが国の電機産業の直面している課題が産学連携だけで解決されるわけではなく、各企業のさらなる経営努力や、さらには業界のより根本的な再編なども含めた抜本的な構造改革が必要である。しかし、これらを長期的に支えるのは技術、経営の両面に優れた人材をきちんと育成することであるし、基礎から応用にわたる研究開発力の強化である。

     さて、「産学連携に欠かせない同窓会」を目指した具体策にはさまざまなものが考え得るが、まずわれわれが議論したアイデアは以下のようなものである。

    • 会員間ネットワーキングのための情報インフラの構築(同窓会報と名簿のオンライン化を含む会員間のインターネットベースのコミュニケーションインフラ)
    • 企業の海外拠点への留学支援制度(電気系のセールストーク的な意味合いも期待)
    • 企業人による特別講義(電気で学ぶ技術がどう社会では役立っているかなど、学習の意義を理解できるもの)
    • 現役学生に対する企業見学会の充実(クラスの連帯感醸成のビークルとしても機能)

     こうした議論を踏まえつつ、4月初めに総会実行委員会を結成、本格的に総会に向けた準備を開始した。実行委員長は相田先生にお願いし、報告者が企業側を代表して副委員長をさせていただくことにした。また、報告者の所属する日立製作所が幹事会社として総会の支援をしようということになった。

     さて、総会で重要なのはそのコンセプトであり、基調である。上述したように、理事会での議論をもとに、同窓会を新しい方向に変身させていこうというわけであり、まず産学連携に不可欠な同窓会というムードづくりを基調としようということとなった。参加者としても従来は少なかった現役社会人、現役学生をできるだけ増やそうということで、プログラムに工夫を試みた。折りしも幹事会社である日立製作所の社長に就任した昭和44年卒の古川一夫氏には特別講演ということで、同社が力を入れている産学連携の状況を紹介していただくとともに、浅田先生には上記した、大学側の状況、課題などについて、できるだけ歯に衣を着せぬ報告をしていただくことにした。この二つの講演を受けて、会場の参加者を巻き込んだ議論につなげることを狙ってパネルディスカッションを企画したが、パネリストの方々のキャラクターも効果を発揮して、会場からもたいへん活発なご意見をいただき、狙いは期待どおり達成できたのではないかと感じている。なお、収録したパネルディスカッションの状況は現在構築中の新しい同窓会HP に掲載の予定である。

     案内状に講演者や、新設となった工学部2号館、コミュニケーションセンター、あるいは研究成果などの写真を掲載したり、実行委員が自分の会社の同窓生へ出席を呼びかけるなど、総会の事前PR にも例年以上に力を入れたことも総会の成功に効果があったのではと思っている。

     総会後、昨年10月には同窓会活性化ワーキンググループを発足、パネルディスカッションでの意見なども取り入れたうえで施策の具体化を図るための活動を開始している。これについては引き続き本会報掲載の別稿にて紹介する他、本年の同窓会総会にて進捗状況ご報告、ならびに会員間ネットワーキングのための新サービス利用方法のご説明などをする予定である。

     最後に平成18年度の同窓会総会を企画するにあたり新しい方向の提案について審議し、支持してくださった理事長の茅先生、幹事長(当時)の青山先生はじめ、理事会のメンバーの方々、実行段階に移ってからは退勤後にいく度となく2号館の電気系会議室に集まり、準備に携わってくださった庶務幹事(当時)の相田先生、幹事の廣瀬先生、岩本先生、企画理事の赤松さん、三浦さん、会計理事の小高さん、幹事会社の日立から参加してくれた畠山さん、事務局の南さん、堀尾さん(当時)、そして総会に出演してくださった古川さん、浅田先生、パネリストの海野さん、町田さん、山中さん、吉岡さん、さらに会場設営やさまざまな裏方をしてくださった学生さん、総会出席者の方他、すべての関係者の方々に感謝をして報告とさせていただきます。

    (昭和50年電子卒)

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