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  • 二つの庭園/斎藤嘉博@クラス1955

      庭園徘徊の気分は続いて、先月修学院離宮を訪ねてきました。

      京都の離宮は桂も御所も宮内庁の管轄で、申し込みが厄介なことからこれまで敬遠をしていました。近ごろはネットで二か月先の予約状況も分かりますし、その画面で申し込みが出来るという便利さ。4月に申し込み、時期は比較的閑散な梅雨時。
      この離宮はご存じの方も多いと思います。定刻、休憩所に集まって、一行十数人と一緒に案内の方に従い下離宮の寿月観から中、上と順に参観。寿月観はここに遊びに来られた後水尾上皇が「やれやれこの山奥まで来たわい」と一休みされるところ。そしてここから両側が田圃の中に続く松並木の道を馬車で中離宮へ。ここにゆっくりとくつろげる楽只軒と名づけられた六室をもつ古い館があります。この館の自慢は霞棚。桂離宮の桂棚、醍醐寺三宝院の醍醐棚とともに三大名棚として有名。よく見られる違い棚のように二枚、三枚の板ではなく、五枚の板が丁度霞がたなびくように作られています。この棚どのように使うのでしょうネ。そしてこの館の縁先から石伝いに小さな池と滝がしつらえてあります。
      松並木を引き返して東方、比叡山の方向に行く別の松並木を軽く上がりますと上離宮の御幸門。ここからはちょっときつい坂道を辿って山の上の隣雲亭に着きます。下方、高低差ほぼ10mのところに広がる浴龍池の眺めは絶景。川を堰き止めて作った広い池の中に二つの島が作られ、その向こうに京都の町の北部の山々、そして西に京の街並み。隣雲亭はさして広くはありません。 隣雲亭からの浴龍池(50%).jpg
    隣雲亭からの浴龍池
      案内の方によれば上皇が使われるのは6畳と3畳の二室に洗詩台と呼ぶ4畳大の板間。ここから池を観下して絶景かナ絶景かナと日頃の憂さを晴らすことになるのでしょう。これが秋の紅葉のシーズンでしたら、あるいは月、雪、桜のシーズンでしたらと、その素晴らしさは想像に難くありません。裏側には八畳、六畳、六畳の控えの間があるのだそうです。しばらく景観を楽しんで池に降り中島、三保島、萬松塢(バンショウウ)三つの島、それらにかかる優雅な三本の橋を眺めながら池辺を歩いてほぼ2時間の参観を終わりました。
      正直言ってやや物足りない感じ。というのはやはり御殿が質素、貧弱だという事でしょう。山上の隣雲亭ならもっと豪華にこの眺めをみる工夫をしてほしい気持ち。この時私の脳裏にはサンクトペテルブルグの郊外にあるペテルゴーフ、ロシア、ピョートル大帝の夏の離宮が思い浮かべられていました。上の庭園と呼ばれるフランス式庭園の池はプールのように四角形で石で囲まれたものですからこれは修学院の浴龍池のほうがずっと情緒があります。しかし下の庭園にある金色の像とその周辺から吹き上がる60に余る噴水の豪華さには目をみはったものです。やはり我が国は貧乏だったのでしょうネ。山上の隣雲亭で月を愛でられる上皇の部屋はもう少し豪華であってほしい。そこにいくと桂の上書院、中書院の館と池のバランスは絶妙の配置であるように思えます。
      昨年秋に徘徊の足を伸ばして上海に行きました。近郊の蘇州には世界遺産となる留園、拙政園、獅子林など八つの庭園が目白押し。どれもほぼ同じ雰囲気ですという地元の方の助言に従って、留園だけを拝観。この庭園は中国四大名園(北京の頤和園・承徳の避暑山荘・蘇州の拙政園)の一つで規模も比較的大きく、総面積は約1万坪、六義園より一回り大きいものです。パンフに「東部廳堂華美、重園畳戸、中部山明水秀、古木蔽空、西部林木幽深、有山林野趣、北部竹篭小屋、呈田園風貌」と書かれているように池のある区画、奇岩のある区画など東・中・西・北の四つに分かれていてそれぞれが違った趣を持っており、その間は屋根のある石造りの廊下で結ばれています。廊下はよく見かける中国風の格子窓が開けられていて次の区画へのよいプロムナード。
      留園で有名なものは多彩な仮山奇石(築山)。特に有名なものは太湖石(たいこせき)で出来た高さ6m余りの「瑞雲峰」と呼ばれる石(写真)で「妍巧甲於江南」と江南三大名石の一つとか。太湖石は蘇州付近の丘陵から切り出される穴の多い複雑な形の奇石で、上海の豫園にも多くがありましたが、中国各地の庭園におかれているようです。 留園、笛子の池(50%).jpg
    留園、笛子の池
      その形は犬に見えたり虎に見えたり、鷹に見えたり、見る人の心によって変わるのが妙で鑑賞だけでなく瞑想のためによいのだそうです。
      水池が中央にあって小さな蓬莱島があり、曲橋を架けて両岸と繋がっている池のある区画には、客室から大きなテラスが張り出していて、池の趣を心行くまで鑑賞できるように作られています。この池では一日に何回か池に浮かべた舟の上で笛子の演奏がされて、この景観に一層の情緒を添えてくれています。
      三時間余りをここで過ごして、中国の庭園の一端をゆっくり味わうことが出来ました。しかし区画割を作って回廊で結ぶという形のために狭苦しい感じ。坪数の割には桂のような広がりと落ち着きを感じることが出来ないのにやや不満を隠しきれませんでした。それは上海の豫園でも同じで、中国の庭園のひとつの形なのでしょう。翌日杭州に走って西湖を訪れたのですが、これは荘大な水の庭園で私の拡がり心をすっかり満足させてくれました。
      庭園の徘徊は暇な老人にいろいろなことを考えさせてくれます。
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