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  • へそまがり「風立ちぬ」余話/森山寛美@クラス1955

     宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」が封切られたのは7月20日でした。


    最初は込み合っているだろうとの判断で潮時を待っていたのですが,遅まきながら9月某日に鑑賞してきました。映画「風立ちぬ」は堀越二郎の零戦開発と堀辰雄の小説「風立ちぬ」がベースになっているわけですが,以下は映画を見ての「へそまがり余話」です。

    小説「風立ちぬ」
     零戦については多くの識者が触れており,またこのブログにも投稿があるものと思われますので,私ごとき弱輩の入り込む余地はないと思います。一方堀辰雄の小説「風立ちぬ」は未読だったので,電子書籍リーダーで読んでみました。僭越ながらその第一印象は「これが昭和初期のベストセラーの文章だろうか?」でした。その直前に読んだのは,浅田次郎の「蒼穹の昴」「中原の虹」などでしたが,それなりの作家の小説は,文章に気を取られることなく,また文章のリズムに乗って内容に入っていけるものです。しかし「風立ちぬ」ではリズムに乗りきれず違和感を覚えたのです。この小説の中で婚約者の名前は節子ですが,映画では,同じ堀辰雄の小説「菜穂子」のヒロイン菜穂子になっています。念のため,小説「菜穂子」も読んでみました。小説「菜穂子」は「風立ちぬ」より2年ほど早く出版されていますが,「風立ちぬ」の文章とは異なり,違和感なく読むことができました。何れも日記風に構成されていますが,この文章の違いはどこから来ているのでしょうか。また小説「風立ちぬ」が昭和初期のベストセラーだったのは,肺結核その他当時の時代背景が関係しているのでしょうか。

    鯖の骨
     社員食堂で鯖の骨から飛行機の曲線を連想している場面があります。私がこの場面から連想したのは,RAF32という飛行機の翼断面の名称でした(RAF [Royal Air Force]:英国空軍)。かつて飛行機マニアの友人に感化され模型飛行機に凝った時期がありました。バルサを使ってRAF32を参考にした翼断面の主翼と箱形胴体を組み合わせ,これに折畳みプロペラ,引込脚を装備しました。動力は糸ゴムに石鹸を塗って摩擦によるロスを減らし,機体の数倍に引き伸ばしてハンドドリルで巻き上げて飛ばしたものです。十分なパワーでほぼ垂直に上昇し,かなりの高度に達した機体は,風に乗って遙か彼方に流され行方不明になってしまいました。その後すべて中途半端ですが,本物のグライダー(プライマリー,ウインチ曳航の教官同乗セコンダリー,飛行機曳航の教官同乗ソアラー)に搭乗,またセスナでの操縦訓練などを経験しました。また双翼の練習機に同乗し,急降下で激しい耳の痛みを感じて戦闘機乗りにはとてもなれないと思ったものでした。
     一本の鯖の骨からの連想は,ほろ苦くも懐かしい青春時代を甦らせてくれました。

    ただ一度だけ
     映画「風立ちぬ」では,二郎が菜穂子と再会した軽井沢のホテルで,ドイツ人カストルプが弾くピアノに合わせて ”Das gibt’s nur einmal(ただ一度だけ)” を全員で合唱する場面があります。これは,オペレッタ映画「会議は踊る」で,ウイーンの手袋店の売り子クリステルが,オープンカーならぬ2頭立てのオープン馬車に乗って歌う歌です(カットなしで約4分)。映画「風立ちぬ」で記憶に残る歌は,この ”Das gibt’s nur einmal” と,エンドクレジットで流れるユーミンの「飛行機雲」ですが,この「飛行機雲」の方に監督の思い入れがあるのは明らかです。私が鑑賞したときには,エンドクレジットが終わり,この「飛行機雲」が終わるまで席を立つ観客はいませんでした。しかし皮肉なことに私の場合,より強烈にいつまでも頭の中に残ったのは「飛行機雲」ではなく ”Das gibt’s nur einmal” でした。
     とにかく,堀越二郎の零戦開発,堀辰雄の小説「風立ちぬ」と「菜穂子」,映画「会議は踊る」など,みな昭和初期の政情不安定な時代の産物です。かくいう私も昭和初期の産で,激動の昭和を生きた人間の一人ですが。

    1件のコメント »
    1. 映画「風立ちぬ」から発展して、ドイツ映画「会議は踊る」が出てきて驚くと共に懐かしい限りです。電気科時代に6畳間の下宿で共に暮らした、今は亡き大西君の薫陶で、「会議は踊る」を一緒に観に行った日を思い出します。音痴の私も、不思議に映画の主題歌は、はっきりと記憶しています。とりわけクリステル役のリリアン・ハーヴェイは素晴らしかった。
      Das gibt’s nur einmal, Das kommt nicht wieder,
      Das ist vielleicht nur Traumerai, ——-
      昭和の青春時代は本当に nur einmal ですね。

      コメント by 大橋康隆 — 2013年10月16日 @ 21:56

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