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  • 「日本沈没・第二部」を読んだ/大曲恒雄@クラス1955

     一昨年亡くなったSF作家小松左京のベストセラー小説「日本沈没」は1973年に出版されたが、その最後は「第一部・了」となっている。ということは最初から第二部が予定されていたわけである。


     
    日本沈没.jpg
     著者自身の説明によると、『「日本沈没」を書き始めたのは1964年東京オリンピックの年。悲惨な敗戦から20年も経ってないのに高度成長で浮かれていた日本に対して、ついこの間まで「本土決戦」「一億玉砕」で国土も失い皆死ぬ覚悟ををしていた日本人が「世界の日本」として通用するのかという思いが強かった。そこで「国」を失ったかも知れない日本人をフィクションの中でそのような危機に直面させ、日本人とは何か、日本とはどんな国なのかをじっくり考えてみようという思いで書き始めた』とのこと。従って、日本が滅亡する危機に直面する状況を作り出すことが第一で、国土の沈没はそのための方便であったわけである。
     なお、日本列島が海に沈むというストーリーの“奇想天外さ”は、数万年~数百万年のオーダーで進行する可能性のある地殻変動を2~3年に短縮してフィクション化したもので、小松左京の得意とする手法と言えよう。
     
     しかし、「日本が滅亡した後生き残った日本人たちが流浪の民となって世界各地で生き延びようと試みる」という第二部、換言すれば著者の本来意図した主要部分はその後書かれることなく30年が経過した。なぜ第二部が直ぐに書かれなかったのかについての事情は非常に複雑でここでは省略するが、やっと2000年の秋にプロジェクトが再開され、2006年夏単行本刊行となった。ただし第二部制作に当たっては著者が高齢化して単独での執筆は不可能となったため、SF作家の森下一仁他数人のプロジェクトチームがサポートし、執筆はSF作家の谷甲州が担当する体制で行われた。

     前置きが長くなったが「第二部」の“初期条件”として
    (1)時期的には「異変」の25年後からスタート
    (2)「異変」の犠牲者は2,000~3,000万人と推定されるが、8,000万人くらいの日本人が国外に脱出した。主な入植地は、パプアニューギニア、カザフスタン、オーストラリア、アマゾンなど。なお、日本政府はオーストラリアのダーウィンに置かれている。

     物語は「異変」から25年経ったのを機に行われた慰霊祭から始まる。この会場に、沈んだ日本列島上の海面を行く調査船が曳航する深海探査システムのビデオカメラが水面下2000mで捉えた実況映像が映し出される。電柱の列と道路標識、二階建ての木造家屋、壁面に時計のあるコンクリートの校舎、そして田圃のあぜ道と用水路、など。典型的な日本の風景で、誰もが心に思い描いている故郷の姿であった。見ている人たちは叫び出したくなるほどの郷愁をかきたてられた。
     主要入植地の1つ、パプアニューギニア(ニューギニア島の東半分)は日本人の大量入植がうまく行った例である。広大な未開拓地が開拓され、社会基盤の整備も各方面で進められた。一方、カザフスタンは入植がうまく行かなかった方の例と言える。当初ソ連邦の崩壊と同期して国の中枢部分にまで日本人が入り込み成功しつつあったが、一部悪徳商人のために日本人排斥運動が起こり、遂には反政府ゲリラ組織として細々と生き延びる所まで行ってしまう。

     日本政府は当初旧日本列島で唯一水没を免れた岩礁を基点にしてメガフロート(*)による100万人規模の浮体都市建設を計画していたが、中国による妨害及び地球シミュレータによる予測(下記)の結果などから断念することとなる。
     (*)超大型浮体式構造物。直方体型の浮体ブロックを大量に生産して継ぎ合わせ大規模な人工浮島とする。羽田空港の第4滑走路建設に際して候補になったこともある。東日本大震災の後、福島第1原発の汚水貯蔵タンクとして使われた。また最近、ブラジル沖の海底油田採掘のための海上基地としての採用を働きかけるために官民共同の開発プロジェクトがスタートしたとのニュースもある。

     地球シミュレータもダーウィンに置かれているが、地球が寒冷化し、北半球の中緯度地帯以北は氷結してしまうとの予測を出す。日本列島の沈没に先立って日本中の主な火山が噴火したため膨大な量の噴煙が噴き上げられ、噴煙に含まれる火山性微量子が成層圏の上層部まで吹き上げられて長期間滞留し、日照を大幅に遮ることとなったため。
     所が、この予測が公表されると世界中にパニックが起こる可能性があるためアメリカが公表の妨害工作を始め、実力行使寸前の所まで行く。結果が公表される前に自国民のために必要な食料などをできるだけ確保しておこうという魂胆で、いわゆる大国エゴ丸出しである。

     この予測は大筋で当たり、北半球北部にある文明圏はやがて壊滅。生き残った人類は赤道近くの僅かの土地と、メガフロートを主体とした海上巨大集落で細々と生き続けざるを得なくなる。日本列島の沈没は、地球規模の大変動の序幕に過ぎなかったというわけ。この後の展開については省略するが、地球と人類の未来についてのシミュレーションの1ケースとして捉えると大変面白い。

    あとがき
     最初は文庫本が出て間もなく読んだが、この項をまとめるに当たってざっと読み直してみた。メガフロートや地球シミュレータなどの“道具”に多少の古さを感じるが、物語そのものは東日本大震災を経験した現在でも十分通用する新鮮さを持っていると思う。本文中にも出てくるが、地球の温暖化と寒冷化の差は紙一重で、しかも一旦どちらかの方向に動き出すとある所まで行ってしまうという恐さがあり、未来の人類がどのように立ち向かって行くのだろうかと余計な心配をしたくなる。

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