入れ歯/斉藤嘉博@クラス1955
記>級会消息 (2012年度, class1955, 消息)
昨年二本の前歯が欠けてこれをブリッジで繕っていました。歯医者は「いま入っているのは当面の飾りですので、固いものを噛まないでください」と言っていましたが、今年になってとうとうブリッジした歯まで巻き添えにして3本の歯がとれてしまいました。
「根がダメになっているので本当なら抜歯するところですが、齋藤さんはワーファリンを飲んでいるので出血のある抜歯はやめたほうがいい。入れ歯にしましょう」と、とうとう私も入れ歯族になりました。
思ったほどではありませんでしたが口中に異物が入って不愉快なこと。上あごにプラスチックの作り物が入っていますので食物の味が違います。魚の小骨は口中で上手に取り分けることが出来ないし、ブドウを食べても皮を分けることが困難です。第一果物などを噛むときに入れ歯の前歯がなんとなく不安で、リンゴをまるかじり齧りなんていう粗野なことは難しくなり、薬の錠剤を嚥下するのもやや困難になりました。米飯は小さい塊を箸で口に運びますので前歯は不要。ステーキだってナイフで切った小さい小片を口に入れるのですから。そんなことから噛むということは奥歯ですりつぶすのが普通と思っていましたがそれは象さんのこと。こうなってみて前歯の役割が予想以上の大きいのにおどろきました。入口にあるだけにまずは前歯が対応してくれるのです。朝食のトーストを小さくちぎって食べたのではおいしくありません。ビーバーほどではないにしてもサルの前歯がしっかりと発達しているのを思い出します。
それまでポリなんとかと時折CMで入れ歯対策の薬品を宣伝しているのは見ていましたが、まったく馬耳東風。しかし自分が入れ歯の身になってみるとそのCMもなるほどそういった意味だったのかと納得。馬には乗ってみよ、人には添ってみよと昔から言われていますが、眼で読み、耳で聞いた学問は知識になっても知恵になりません。体験は物事の本質を学ぶということのようで、その大切さを改めて感じた次第です。学生時代、午後はほとんどが実験に充てられていましたがこれも先人の経験から出たカリキュラムでしょう。
体験と言えば昨年友人のお嬢さんが「患者さんとお医者さん」という本を丸善から出版しました。お嬢さんは慶応病院の医師で活躍されていましたが、医者の不養生、いや忙しさの故に治療が遅くなって大腸癌でかなり大変な手術をされました。その経験を本に書かれたのです。出版記念会で一言と請われ、「お医者さんが患者になるのは大賛成。他人を診察するのならまず自分が患者になってそのつらさを体験してみないと。ここにおられる多くのお医者様もとにかく一度は患者になってくださいネ」とお話したものです。この本にもたとえば“手術よりつらかった術前検査”という節に
医者「ある程度決まっている検査なんだしそんなつらいことはないんじゃない?」
患者「そう思ってたんだけど、注腸検査は死ぬほど痛かったんだよ。お医者さんも一度自分で検査を受けてみたほうがいいよ。これ以上やるなら殺してくれっておもった」 中略
患者「胃カメラも思いのほかつらかった」
医者「麻酔かけてもらったんじゃあないの?」
患者「麻酔が効いてもつらくて無意識のうちに自分でカメラを引き抜こうとしていたらしい」
医者「それにしても胃カメラを壊さなくてよかった。あれけっこう高いから」
お医者様が患者になってもこれくらい思うのですから我々素人が患者になったらたいへん。私の胃癌手術の時にもむしろ術前検査のほうがつらかったのでした。本番はそれなりに慎重に名医が執刀し、周辺のチームも十分に訓練されているのでしょうが、術前の検査は多少手軽にいくのでしょう。
近ごろ増えた高齢者、その方たちはたくさんの体験、経験を持っています。長生きしているということのメリットは経験豊富というぐらいでしょう。昔は髭を長く生やした超老人は仙人と言われていました。仙は人偏に山。漢和字典によると「人間界を避けて山中に入り霞と露を食べて不老不死の術を修行したもの」とあります。体験の権化みたいなものですが、百歳以上のご高齢の方が万人以上いる現在の世の中では一桁小さいセンニンは影が薄くなりました。高齢者社会というのは長年の体験が渦を巻いている世の中。世間がそれを活かさない手はないでしょう。小生もなんとか元気なうちは長い体験をもとに社会のお役に立ちたいとおもっているのですが。
2012年8月16日 記>級会消息
歯の具合が悪いのは本当に不便だし、この歳になると食事の楽しさは重要な暮らしの質ですから、心からお見舞い申し上げます。
それに何時もながら斎藤さんのブログは文章力が大なので、私も急に朝晩の歯磨きに念を入れる様になりました。
どうかお大事になさって下さい。
コメント by 小林 凱 — 2012年8月16日 @ 21:11
斉藤さんは3本の入れ歯にされたそうですが、私は既に上の前歯8本が入れ歯です。勤務中の不養生が祟り、前歯はサシ歯にしていましたが、数年前に1本の歯根が割れて抜歯したところ、次々に歯根が駄目になり、遂に8本連続して入れ歯になりました。私もバイアスピリンを飲んでいるので、神経内科の先生は抜歯は危険と言われましたが、寒い冬を避けて暑い時期に入れ歯にしました。最近は、従妹の長女が3つ目の駅(急行は1駅)近くのマンションで歯科医院を開業したので、詳しく頭の病状を説明した上で、安心して治療を受けています。
胃カメラ、大腸カメラは逃げ回っていましたが、遂に検診する羽目になりました。特に大腸カメラの際は、前立腺のハルナールを飲んでいるため、特別な薬を飲まされ、検査後急に血圧が下がる危険があるので、グルコースを持たされましたした。
コメント by 大橋康隆 — 2012年8月16日 @ 21:19
お見舞いありがとうございました。なんとかあとしばらくこの入れ歯と仲良く付き合っていこうと思っています。この夏の最大の難関はトウモロコシでした。これは前歯で実を取らなくてはなりません。見かねた家内が実を小鉢に落としてくれましたが、やはりこれはかぶりつかないとネエ。大橋さんも歯をお大事に。
コメント by サイトウ — 2012年8月17日 @ 11:39