おひなさま/斎藤嘉博@クラス1955
記>級会消息 (2011年度, class1955, 消息)
今年ももう二月。お雛様の時期になりました。我が家では昨日お雛様をかざりました。3月末まで楽しみます。
内裏は昭和の真太呂作の古今雛で、娘の誕生を祝って両親が買ってくれたものに私たちが年々買い加えて写真のような小さいながらのファミリーが出来上がりました。本を重ねた上に板を置いて台板とし、折り皺のできた毛氈にアイロンをかけての飾りつけはご老体にだんだんしんどくなってきましたが、私の唯一の浮気相手である女雛さまとこれから2か月の逢瀬を楽しめると思うと、その程度の仕事は仕方がないでしょう。見られるようにお囃子は七人の楽師になっています。
この時期あちこちの博物館などでお雛様の特別展示が行われます。昨年は目黒雅叙園で開かれた百段ひな祭りを見てきました。目黒川から目黒台にかけての傾斜地に建てられた贅を極めたつくりの旧三号館。この百段階段の途中にある十畝の間、漁樵の間などに元禄雛、古今雛など名家所蔵の逸品がきらびやかに飾られていました。ひとつひとつの顔に味と慈愛があってまことに見る人の心を癒してくれます。伊豆稲取や酒田のつるし雛も一緒に展示されていましたがこれはまた地方色豊かな素朴な感じ。日本橋の三井記念美術館には三井家三井苞子氏所蔵の享保雛、有職雛、次郎左衛門雛に銀のお道具など伝統と格式を感じさせる多くのひな人形があります。
しかし雛と言えばやはり京都。京都国立美術館には優雅な古今雛がありこの時期展示が行われますが、ネットで所蔵品の鑑賞が出来ますので覗いてみてください。西陣堀川にある臨済宗の尼門跡寺である宝鏡寺は大きな庭があるでもなし、いわゆる観光名所寺としてはそれほど有名ではありませんが一隅に人形塚があって、人形寺として親しまれています。ここには孝明天皇ご遺愛の人形や優雅な御殿飾りの雛壇などがあって冬枯れの京都に明るさを見せてくれます。御殿飾りは最上段に御殿をしつらえ、そこに内裏さまと側近を置いたもの。比較的近年に盛んだったようですが、私は屋根のある重厚な御殿よりも屋根のない吹き抜けの御殿飾りの解放感に妙な共感を覚えます。また孝明さまとよばれている孝明天皇愛玩の御所人形の表情はまことにあどけなくすばらしい逸品です。
物理的には無機質の人形の頭に「お」、下に「さま」と最大限の敬語を使って表現するお雛さま。童謡にも歌われた「青い目をしたお人形」など西洋にもたくさんの人形があります。ミルンの「プーさん」にも見られるようにぬいぐるみが子供の遊び相手であり心の友達であるということは世界どこも同じですが、大人までを巻き込んでのお雛様ほど尊敬の念で扱われるものはありません。そしてひな人形の特徴はかならず男女のカップルで扱われる点。夫婦という生活単位はむしろ西欧のもので日本では男が断然優位の世の中でした。それがこのような形で受け継がれるというのは実は日本が夫婦の単位を大変尊重しているということなのでしょう。
平安時代の人形(ひとがた)に始まって江戸庶民のなかで成長したお雛様。立雛から座り雛へ、享保雛、次郎左衛門雛、元禄雛、古今雛など時代によってその形に様々な変化はありますがお雛様を魂の宿る“ひとがた”として大切にするとう気持ちには変化がありません。伝統というものの重みを感じるとともに、現代の私たちの生活の中から生まれたもので将来も長い間引き継がれるであろう文化ってなんだろうと考えてしまいます。カラオケ、パチンコ??これではさびしいですね。目先の利益ばかりに目を奪われているコンピュータの時代。文明は栄えますが文化は衰退の一途をたどるのでしょうか。
(2月3日 記)
2012年2月6日 記>級会消息
斎藤さんの楽しい雛祭りのお話、ほのぼのとした気分で拝見しました。しかし今も尚お宅でお雛様を飾られるのは凄いと感心です。
偶々私も近く伊豆稲取のつるし雛を見に行く予定です。ここは手作りの雛に籠められた母親の思いが伝わって来るので、再度の見物です。
コメント by 小林 凱 — 2012年2月6日 @ 22:02
斎藤さんのほのぼのとしたブログに後押しされて、我が家も今日何年振りにひな人形を取り出して飾りました。平安雛ですが、作者の名前が達筆で読めません。久しぶりなもので、並べ方がうろ覚えのため、ネットで確かめながら飾りました。かって内裏様が向かって左か右かでちょっとした論戦があったのを思い出しました。
コメント by 新田義雄 — 2012年2月9日 @ 20:29