「はやぶさ」60億キロの旅(その4)/大曲恒雄@クラス1955
記>級会消息 (2010年度, class1955, 消息)
7. 「はやぶさ」最後の日
当初の計画ではカプセル分離後「はやぶさ」本体を太陽を回る軌道に戻すことになっていたようだが、
トラブル多発と帰還が遅れたためにこの計画は断念された。
2010/6/13 19:51カプセル分離成功
この時まさに「はやぶさ」は渾身の力を振り絞ってカプセルを放出したと言える(姿勢が50度くらい揺れたらしい)。カプセル分離には火薬を使うが、当初の計画より3年も帰還が遅れたために火薬の寿命が大丈夫か非常に心配されたとのこと。
カプセル分離で「はやぶさ」のミッションは完了となったが、チームは最後にもう一度「はやぶさ」に地球を見せてあげる(チームリーダー川口教授の言葉)ための姿勢制御と撮影を行い、見事地球の姿を捉えることに成功した。最初に公表された写真は不鮮明であったが、修正後の写真が下記に発表されている。
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/0618_2.shtml
ミッション最終段階における運用の要点や今後の計画(「はやぶさ2」を含む)の概要については下記のレポート『「はやぶさ」資料回収カプセルの再突入結果について(速報)』に記載されている。
http://www.jaxa.jp/press/2010/06/20100616_sac_hayabusa.pdf
カプセル落下地点は予測地点から僅か1.1kmしか離れていなかったとのこと。これは大陸間弾道弾の精度並み或いはそれ以上と言われている。
余談的な話になるが、NASAはカプセルの減速がうまく行かず地面に激突して粉々になるだろうと想定し、その写真を撮るために待機していたらしい。結果としてその期待は裏切られることになってしまったわけ。
8. 「はやぶさ」のおみやげ
「はやぶさ」から分離されて地球に帰還したカプセル、熱シールドなどは2010/7/30~31の相模原市立博物館を皮切りに全国各地で公開され、非常に大きな関心を集めている。詳細は下記を参照されたい。
http://www.isas.ac.jp/j/topics/event/2010/0730_capsule.shtml
また、2010/10/26~11/7の間は上野の国立科学博物館で公開される予定になっている。詳細は下記を参照されたい。
http://sora-uchu.jp/
カプセルの中にイトカワの微粒子が入っているかどうかは大きな関心事であるが、これについての最新発表は下記の通りである。
$00A0$00A0 http://www.jaxa.jp/projects/sat/muses_c/index_j.html
9. 「はやぶさ2」への道
『チームリーダーの川口教授曰く「後継プロジェクトをやらずして「はやぶさ」の計画は終わらない』。(資料1)
(資料1)探査機 はやぶさ7年の全軌跡(Newton 別冊2010/7)
2010/7/16 JAXA(*)発表によれば2014年打ち上げを目指す「はやぶさ2」の開発費は148億円となる見通しで、127億円だった「はやぶさ」より2割増となる。これは原材料費の上昇の他、小惑星に弾丸を撃ち込んでクレーターを作る新しい探査装置を組み込むため。2014年に打ち上げた場合2018年に小惑星に到達し、2020年に地球に帰還する予定。
(*) JAXA:宇宙航空研究開発機構
2010/8/11 文科省宇宙開発委は「はやぶさ2」搭載機器の試作を承認した。計画によると「はやぶさ2」は水を含む鉱物や有機物が豊富とみられる小惑星「1999JU3」を目標とする。爆薬を使い金属塊などを高速で小惑星にぶつけ、人工クレーターを作る新開発の装置を搭載するほか、着陸して地表やクレーター内の物質を地球に持ち帰る。2014年に打ち上げ、2020年の地球帰還を目指す。
H22年度予算では自民党政権当時の概算要求額が17億円だったが、鳩山政権発足後の見直しで5000万円となった。事業仕分けでは「コスト削減の努力をすべき」などと判定されて更に3000万円に削減された。
2010/6/15の参議院代表質問で菅首相は「今回の実績を踏まえ開発経費について必要な手当をできるように配慮したい」と表明。JAXAを所管する川端文科相も閣議後の記者会見で「予算削減は「はやぶさ」の成果をみながら考えようということだった」と釈明した上で「非常に大きな成果を上げたのでそれを踏まえて考えたい」と述べた。事業仕分けで「仕分け人」をつとめた蓮舫行政刷新相は「私は宇宙関連に関して直接担当していたわけではない。仕分け結果を何が何でも守るというべきものではない」と語った。
(2010/6/17 YOMIURI ONLINEより)
遅くとも2015年までに打ち上げないと目標とする小惑星の軌道の関係で到達が難しくなり、事実上計画断念に追い込まれるとのこと。
従って来年度予算に開発着工費を盛り込めるかがポイントとなるが、上に述べたような流れからすると大丈夫のような感じがする。
何としてでも開発を本格的にスタートさせ、「はやぶさ」の成果を生かし、更に発展させて行ってもらいたいものである。
2010年10月21日 記>級会消息