グローバル化と外来種の駆除/武田充司@クラス1955
記>級会消息 (2009年度, class1955, 消息)
植物や魚などの外来種が入ってきて、その地域固有の種が絶滅の危機に瀕しているという話をよく聞きます。
現代のように、船舶だけでなく航空機まで使った国際貿易が盛んになると、監視や規制を強化したり、外来種の駆除を徹底したりしても、こうした問題を解決するのは容易ではない、というより、殆ど不可能でしょう。
ところで、地球上の生物には人類も含まれますから、外来種問題は決して他人事ではありません。北米大陸のアメリカ・インディアンという種が、ヨーロッパから渡って来た白人という外来種の侵入によって、絶滅危惧種(Endangered Species)になってから久しいし、中南米のインディオも同様でしょう。我々の身近な例では、北海道のアイヌもその例でしょうか。
「種」というのを拡大解釈して、部族の文化や社会システムまで含めると、戦後の日本は、アメリカ文化とういう外来種の大規模な侵入によって、固有の日本文化(?)というようなものが、絶滅危惧種となってきたことは、近頃の若者を観察すれば納得ということでしょう。いまや、グローバル化(Globalization)というのが大流行ですが、これは、「外来種侵入障壁をすべて取っ払え!」ということと殆ど同義語のようです。国家による統制や国境という障壁は、人類の進歩と世界平和にとっての阻害要因だということでしょうか。要するに、人間社会の場合は、動植物の場合と話は全く逆で、経済活動や企業間の競争において、外来種を駆除してくれる人はいないどころか、優れたものが勝つのだから、絶滅危惧種を保護したり、外来種を規制したりするのは社会の進歩と効率化を妨げるというわけで、強い外来種は大いに栄え、賞賛されています。
でも、大きな盥に水を張って運ぶと、バッチャン、バッチャンと水が暴れて(これを専門家は「スロッシング現象」と呼びますが)、実に不安定です。スロッシング(sloshing)を抑えるのには、盥に仕切り板を入れて、その仕切り板に適度な大きさの窓(穴)をあけて水の通り道としておくとよいことは、素人の経験からも分かります。仕切り板に穴が開いているところが味噌で、この窓(穴)の大きさを加減すると、スロッシング振動に適度なダンピング(減衰)効果が働くので、水を溢さずに楽に盥を運ぶことができます。
グローバル化にはよい点が沢山ありますが、やり過ぎると、先日の世界金融危機のように大規模なスロッシング現象が起りますから、穴の開いた仕切り板で適度に区切って、ダンピング効果を効かせる必要がありそうです。
動物や植物における種の多様性の大切さを言うのなら、人間社会においても、適度な棲み分けによる人種や文化や社会システムの多様性保持にもっと心を砕くべきではないでしょうか。世界の過剰な均質化は、環境変化に対する人類の適応能力を削ぎ、社会の動的安定性(Dynamic Stability)を劣化させると思います。
2010年3月25日 記
2010年4月1日 記>級会消息