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  • 光通信システムの初輸出/大橋康隆@クラス1955

     光通信の売り込みのため講演に行くと、必ず出る質問があった。「結構な話ですが、世界の何処で実用していますか?」

     或る時は「エスキモーの人達に氷を売りに行くようなものです。」と言われた。しかし、幸運は意外なところからやってくる。
     1977年2月、米国で開催された光通信学会に出席した伝送技術者2名、無線技術者1名から「Disney Worldが電子交換を導入したが、新伝送システムを探している。」という情報が入った。運よく私は3月にカナダのエドモントン電話会社に出張予定だったので、担当役員と相談して、カナダからNEC AMERICA に電話して、ワシントンの米国人マーケッティング・マネジャーとフロリダのオルランド空港に同行した。直ちに、ビスタ・フロリダ電話会社を訪問し、2人でマンホールの蓋まで開けて現地調査をしたので、先方の技術陣はすっかり信用してくれた。その後、順調に交渉は進んでいったが、電子交換を納入した会社が察知して、1977年9月に国際入札となった。Disney World内では夏休みになると子供達で溢れるので、その前に工事を完成する事が絶対条件であった。これを確約できたのは、早くから準備していた我々だけであり、1997年12月に正式契約の運びとなった。
     納入システムは米国方式の45MBであったが、当時のNTTは32MB方式であった。しかし、技術的には同じ中容量方式である。幸い「45MBは32MBにあらず。」とのご英断により輸出許可を得た。機器の製造は順調に進んだが、光ケーブルは住友電工と日本板硝子の製品である。当時としては異例の速さで、合計23リール(内1リールは予備)が納入された。工事の訓練と支援に、NECからは製造技術部から課長と担当者が2名出張した。彼等は光ケーブルの海外工事は初めてだったので、「無事生きて帰れるか」と、皆心配した。幸い、
     運搬中の振動で光ファイバーのストレスがとれ、予想に反して損失は少なくなり、システム・マージンが増加した。工事の終わり頃、恐ろしいテレックスが入った。1区間でファイバー長が足りないので、予備のリールを使いたいというのである。紐を入れて測定した筈なので、もう一度測定するよう指示した。
     前回未完成であったマンホールの位置がズレていることが判明し、1日で移設するよう客先に交渉し、実行してもらった。
     1978年6月27日、9km離れた電話局間で無事開通し、最終試験が完了した。その晩、激しい雷雨があり、銅線のPCM回線はダウンしたが、光は無事でお客様は大変喜んだ。予定通りに1978年7月1日から商用開始した。翌日、Disney World内の湖の船で、日米の参加者全員の昼食会をした後、甲板で記念撮影し、写真は帰国後全員に送付された。後に、NECシステム・エンジニアの一人が、ビスタ・フロリダ電話会社の美人秘書と結婚することになった。
     1978年7月13日、正式の開通式が執り行われ、先方のVIP並びにNECの海外担当専務と、NEC AMERICAの社長が出席した。この日の夕方Disney Worldで眺めた花火は素晴らしかった。
     ビスタ・フロリダ電話会社の45MB光システムは輸出第一号となり、技師長のJoe Hegarty氏により、TelephoTEM表紙.jpgne Engineering TEM 105頁.jpg& Management(September 1,1978)に光システムの詳細が発表された。表紙にカラー写真が掲載されたので、宣伝効果は大きかった。左側が技師長、中央が工事長、右側がNEC AMERICAのマーケッティング・マネジャーである。
     1980年3月にアルゼンチンから140MBと34MBで900システムを受注し、特別起案をして設備投資をした。その後暫くは大型受注が無く、工場にはペンペン草が生えていると事業部会議の度に責められた。しかし、翌年になると、ビスタ電話会社の宣伝効果とアルゼンチンの受注により、北米をはじめ世界各地から注文が殺到した。設備が不足して、先見の明がないと絞られたが、嬉しい悲鳴であった。

    参考文献
    1.J.Hegarty:「‘Tomorrowland’is Today at Disney World」Telephone Engineering & Management (September 1, 1978) p105-107
    2.大橋康隆:「光通信の現状と動向」日本機械学会誌(1982, 5) p 572-577
    (国立情報学研究所CiNiiに本文 PDF)
    3.大橋康隆:「光通信の実用技術」産報出版 (1983, 1)

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