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  • 依佐美(YOSAMI) マイルストン/大野栄一@クラス1955

     今から50数年前の大学生時代、学期の変わる毎に岐阜―東京間を利用していた東海道線の車窓から高さ250mの塔が林立しているのが望まれた。

    その下には日本最初の対欧州通信基地で、第二次大戦中は海軍の対潜水艦通信を担い、私が車窓から眺めた頃は米海軍が使用し始めていた依佐美送信所があった。当時そのような知識もなく、ただ高い塔だなあと感心して眺めていただけなのが、今になって悔やまれる。
     
     現在の刈谷市にある依佐美送信所は、当時欧米列強の通信網に頼らざるを得なかった状態から脱出するために、国策によって建設され、1929年に完成した。設備全体の方式設計は、テレフンケン社が担当した。ユーラシア大陸を横断して9000km 以上の遠距離にある欧州との通信のため大電力を要する電源装置は、電子管のない時代の先端技術としてWard-Leonard方式で駆動されるAEG製の誘導子型高周波発電機が主役となっている。発電機は 5.814kHz, 500kW という高周波発電機としては世界最大のもので、その出力側に接続された逓倍回路で3倍の17.442kHz が得られ、送信信号で変調されて、250mの塔に張られたアンテナに供給される。
     実際には完成直後から実用化が進んで来て依佐美にも併設された短波通信に主役を奪われ、冒頭に記したように長波の水中伝播特性を利用した応用に転換して行った。1993年には米軍の使用も終わり、安全上の問題もあって8本の塔やドイツ風建築の本館などを含む設備全体の解体工事が1996年から始まった。
     
     これに対して、歴史的価値のあるこの設備を保存しようと、中部産業遺産研究会の田中浩太郎会長を中心とする熱心なご尽力があり、刈谷市が保存を決め、依佐美送信所記念館が2007年4月に開館した。記念館の中には、電源装置や制御盤などが保存され、正面玄関前には、高さ25m に短縮されたアンテナ塔が展示されている。(写真1、2)

     依佐美(2).jpg             依佐美(1).jpg
                写真1
    依佐美送信所記念館外観
    JR東海・刈谷駅よりタクシー
    8分
    フローラルガーデンよさみ内
                      写真2 
               記念館内の電源装置
              手前より誘導電動機、直流発電機、
              直流電動機、高周波発電機

     私は昨年8月のブログに書いたように、21世紀に入った頃からIEEE Milestone にかかわるようになり、日本からの申請を増やす努力を始めていた。その頃、依佐美送信所の話が名古屋支部からあり、先ずは実態を見ようと正式開館直前の記念館を訪問した。美しいフローラルガーデンに囲まれた本館に立ち入ると、弱電のイメージを覆す大型回転機が並び発電所さながらの壮観に一驚、また、手回しハンドルで大きなコイルを移動させて結合度を調整する誘導コイルなど、電磁気学の原理を目前で体得できる最善の教室だと感心した。マイクロエレクトロニクス時代で、見えない世界が多くなる一方の現在、特に若い人々に電気への興味を抱かせ、理解を深めさせるには最高の教育の場所でもあると実感した。
    田中会長を始め、地元大学の先生方の以前からの調査・研究の蓄積の成果でマイルストンの申請、審査は順調に進み、昨年11月にIEEE の最高機関により正式に認定された。現在、今年5月19日にこの記念館で贈呈式を行うべく計画が進められている。
     贈呈式には、かっての通信相手であり、世界遺産に認定されているスェーデンのグリメトン送信所から依佐美のマイルストン受賞を祝って、祝電を発信してくれると言う。残念ながら依佐美は静態保存で受信できないので、専門家の助けを借りて何とか受信できないか探索中である。また、地元の協力も素晴らしく贈呈式には小学生が米国やスェーデンの国旗を持って海外からの来客を迎えてくれるという。グリメトンからは2人の技術者が来訪して記念講演も予定されていて、受賞を契機に新しい国際交流が始まろうとしているのは喜ばしい限りである。特徴ある式典になりそうである。
     なお、文中に中部産業遺産研究会会長として紹介させて頂いた田中浩太郎氏は、我々の丁度10年前に電気を出てNTTで活躍された大先輩で、通信関係の方はよくご存知と思う。私は分野が違っていたため、最近お知り合いになったのであるが、今もなお元気に活躍されている姿に感嘆している。今回のマイルストン贈呈式の記念講演会では講演者の1人として「依佐美の歴史」を紹介頂くことになっている。10年後に我々も今の田中先輩のようでありたいものである。
                                                              2009/03/27

    2 Comments »
    1. コメントをUPするのが遅れて申し訳ありません。御蔭さまで依佐美送信所の設備をIEEEのマイルストーンに認定して頂き私は心から喜んで居ります。グリメトンと並んでエレクトロ二クスを使わず、古典電磁気学による無線通信の証拠として永く歴史に残るものと思うからです。
       
       其の為に今回大野兄が如何に大変なご苦労で尽力されたかを伺い知り、心から敬意を表する次第です。通信屋の一人として私からも厚くお礼を申し上げます。
       
       大野さんも来週の式典での冒頭の「マイルストーン認定の経緯」の挨拶(英語)など色々と大変か?と思いますが、私もその他大勢の一人として式典を傍聴させて頂き、田中浩太郎氏をはじめとするご関係の方々に敬意を表したいと考えております。
       当日の成功を心から願っております。
       なお、17.2kHzのグリメトンの試験電波は我々無線の仲間(NTTの)で受信すべく努力しましたが、残念ながらノイズの中に埋もれて結局不可能でした。波長が20km近くでそのアンテナ設備が大変でループアンテナも巧く行きませんでした。何せ世界遺産のグリメトンは動態保存で動かせるのは将に脱帽です。
       重ねて大野兄に感謝して失礼。

      コメント by 林 義昭 — 2009年5月16日 @ 09:30

    2. 依佐美の贈呈式も19日と間近に迫って来ましたが、林兄も参加願えるということで有難うございます。グリメトンからの電波受信については困難な状況下でご尽力頂き有難うございました。当日も発信してくれるようですので、日本では無理かも知れませんが、近くの欧州や米国東海岸で受信できれば、依佐美のためにも大変有難いことと感謝しています。
      私の挨拶は日本語で、時間も短く多くは期待しないで欲しいですが、多くの関係者が参加されますので林兄にとっても貴重な機会になることを願っています。

      コメント by 大野栄一 — 2009年5月16日 @ 11:57

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