月と地球の物語/大曲恒雄@クラス1955
記>級会消息 (2008年度, class1955, 消息)
月周回衛星「かぐや」は2007/9に打ち上げられ、2007/10から月の直ぐ近くで観測を続けており、数々の新しい発見がなされている。
また、ハイビジョンカメラで撮影された「満地球の出」の映像はテレビで放送され、話題となった。
ここでは、2008/10/13に放送されたNHKスペシャル「月と地球・46億年の物語」を中心に「かぐや」の最新報告や月にまつわる話題を紹介する。
(1) “月のウサギ”は裏側にはいない
月はいつも同じ面を地球に向けていて裏側は見えないが、これは地球に近い側に重い物質が集まっているからと考えられている。表側は溶岩がクレーターを埋めた部分が多く、そこが黒く見える。これが“月のウサギ”と言われる黒っぽい部分の正体である。裏側にはクレーターがそのまま残っている。「かぐや」の軌道を精密に分析した結果、密度の大きい部分が表側に沢山あり、逆に裏側には密度の小さい部分が多いことが分かった。これは月が誕生した時の過程によるものと推定されている。
(2)月のクレーターの観測から地球の天体衝突の歴史が推測される
地球上では大気や水の浸食のために天体衝突の跡が残っていないが、月のクレーターの分布を詳細に観測した結果から40億年前地球に生命が誕生したのは小惑星が多数衝突したことがキッカケになったと推定される。この時、小惑星が持ち込んだ鉄と地球の海水中に含まれる炭素やアンモニアから生命の誕生に欠かせないアミノ酸が作られたと考えられており、実験でも確かめられた。
(3)誕生して直ぐの月には水があった
アポロ17号が1972年に持ち帰った月の土(オレンジソイル)から今年になって水が発見された。このオレンジソイルと同じような成分の土が広く分布していることを「かぐや」が発見した。
このことから誕生直後の月には水があったと推定されているが、番組で語られるストーリーは:46億年前原始の地球に巨大な天体が衝突し、地球は数千度まで加熱され水はすべて蒸発し消えてしまった(ジャイアントインパクトと呼ばれている)。飛ばされた破片は土星の輪のように地球を取り巻いていたが次第に合体を繰り返し月へと成長した。地球は重力が大きいので水蒸気となった水を呼び戻すことが出来たが、月は重力が小さいため水蒸気が逃げてしまい、水のない惑星となった。ただ岩石に取り込まれた水蒸気だけがオレンジソイルとして月に残った。
(4)月は地球上の生物にとって大切な役割を果たしている
地球の気候が安定しているのは月があるからで、地球の自転軸の傾きは月によって保たれている。もし月がないと自転軸は大きくぶれてしまい、夏と冬の気温差がずっと大きくなる。また自転が早くなり強風が吹き荒れ、今の地球にいるような生き物には耐えられないような環境になる。
数多くの成果を挙げてきた「かぐや」の定常運用は2008/10/31で終了、翌日から後期運用に入っている(2008/11/5宇宙航空研究開発機構発表)。後期運用段階では低軌道での観測を行い、最終的には月の表側の目標地域への落下運用が行われる。
月探査の歴史はソ連の一方的リードで始まった。1959年にルナ2号が月面に衝突、地球外天体に初めて到達した人工物となっている。これに対してアメリカは、有名なケネディ大統領の「1960年代の終わりまでに人間を月に送り込む」との大号令のもと文字通り国の威信をかけて(勿論莫大な費用もかけて)アポロ計画を推進し、遂に1969/7 アポロ11号が人類初の有人月探査に成功した。アポロ17号(アポロ計画の最後)には始めて地質学者が搭乗し、前述のオレンジソイル発見という偉業を成し遂げている。
その後、1990/1に打ち上げられた日本の「ひてん」が月を利用した軌道変換実験を繰り返し行った後1993/4月面に衝突、日本は月に人工物を送り込んだ3番目の国となった。
アポロ計画以来しばらく途絶えていた本格的な月探査が最近になって盛んに行われるようになった。即ち、ESA(ヨーロッパ)がSMART-1を2003/9に打ち上げ(2006/9ミッション終了)、日本が2007/9「かぐや」を打ち上げ、中国が月探査機「チャンア1号」を2007/10に打ち上げ、インドも2008/10に月探査衛星「チャンドラヤーン1」を打ち上げ、この所ちょっとした月探査ブームになっている。
月資源の探査、更に将来的には月面基地建設をも視野に入れた月面探査競争がこれから益々激しくなるものと思われるが、「かぐや」の成果を生かして他の国に負けないように、少なくとも後からスタートしたランナーに抜かれないように頑張って欲しいものである。
2008年12月1日 記>級会消息
「かぐや」が地球を撮影したハイビジョンカメラは私の勤めている「池上通信機」がNHK、JAXAの指導の下製作したものです。御参考まで
コメント by 沢辺栄一 — 2008年12月1日 @ 09:53