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  • 近頃思うこと(4):理工離れを憂う/沢辺栄一@クラス1955

     読まれた方もおられるでしょうが、今年の8月18日号の日経ビジネスに「さらば工学部」という特集が掲載された。


     その記事に今年東大理科Ⅰ類の成績優秀者の58人が経済学部に志願するという東大工学部を揺るがす事件が起こったと報じていた。一方で「土木、機械、電気、化学」の人気凋落に歯止めが掛からないし、原子力、船舶系の学科は既に消滅している。京都大学で工学部3年生を対象に実施した化学の試験で不合格者が続出し、従来10%程度だった不合格率が40%に急増している。このような状態に対して企業側も大学に頼らない独自の対策に入っている所もあるとのことである。
     理工科学生の学力が低下した理由の一つに「ゆとり教育」政策によるところも大きいと考えられたり、学生の理科離れの理由に勉強の難しさ、官庁や企業における文官優位のシステムなどもあるが、技術者が一般の人に見えないことにも大きな理由があると考えられる。NHKのテレビにしても歌謡番組、スポーツ番組が多く、歌手やオリンピック選手、野球選手、サッカー選手等に焦点が当てられているが、歌やスポーツでは国を豊にすることは出来ない。もっと良い時間帯で技術者のことについての放送を多くする必要があると前から思っており、最近NHKの役員にも「プロジェクトX」のようなもっと技術者が表に出る番組を作るように話題にしてくれと頼んだ所である。今年の学士会会報5号に工学院大学理事長の大橋秀雄氏が「仕事が見えない」と題して理工系の卒業者が殆ど見えない場所で働いており、技術者の可視化を真剣に取り組まなければならないとしている。資源の無い日本は人材が資源であり、優秀な人材が理工系に集まらなければ日本の将来は無いと思う。
     最近4人の科学者がノーベル賞を受賞したことは一大朗報である。これらの受賞対象は今から30~40年前に行った研究であり、今はどうなっているのか。今でも世界No.1の技術は多く、大原子力発電所の技術は日本にしかない、超高速列車の走れる80kg/mのレールを作れるのは日本だけ、バルト海の海底に敷設する7,600kmのパイプラインは日本製、砲丸投げの球は日本のものが一番良い、・・・等々数え上げればきりがない良い状態であるが、現在の理科離れの状態でいつまで技術力が保たれるか心配である。
     この秋の褒章でも紫綬褒章受章者43名中スポーツ関係者が24名もおり、理系関係者がたった1~2名である。スポーツが文化といえるかにも疑問に思うが、4年前の小泉首相の一言で紫綬褒章の予算をスポーツ人が占めてしまい、理工系へ回らなくなり、紫綬褒章の理工系軽視の方向が更に進むことになった。スポーツは色々な所で表に出ており国民栄誉賞など別の形で賞すればよいのではないかと思っている。20~30年前までは理工系の受章者がかなり多かったが、最近は非常に少ない。これも理工系へ行きたい意欲を少なくしているように思えてならない。ノーベル賞受賞者が皆自分たちの受章が若い人への刺戟になることを望んでいたが、若い人が科学者技術者になりたい意欲が湧く施策が政府や放送等のメディアに目に見える形で現れることを望んでいるこの頃である。 (11月5日記)

    1件のコメント »
    1. 全く同感です。同じような心配をしている人は多いと思いますが、特効薬的な対策がないのが悩ましいところで、よく言われている幾つかの著名な対策(可視化など非常によい対策だと思いますが)をひとつづつ実施していくしかないのでしょう。僕自身も、自分に適した、出来ることだけを、細々とやっていますが、大海に注ぐ水一滴の観ありです。

      コメント by 武田充司 — 2008年11月24日 @ 11:57

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