クラス1953新(昭28新)
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【新制大学60年/中川和雄】
新制大学が発足してから60年になります。私が13年の単身赴任を最後に勤めを去り、近くの大学で経済学を学び初めてからも6年の歳月が流れました。幾十年ぶりの大学キャンパスには、懐かしい昔ながらの姿もあれば、戸惑いを覚える風景もあります。その幾つかを書いてみます。
1.「敗戦の貧しさから、日本が立ち直ったのは・・・・ 」 ネパールからの留学生
学期初めの慌ただしさが収まり、座る席も定まってくる頃には、顔見知りになった学生たちとお喋りもします。少し前のことですが、斜め前にはネパールからの留学生(女性)がいました。後の男性は韓国の留学生でした。ある日、尋ねました。
「日本のなにを知りたいですか?」
ネパールの留学生は、すぐに答えてくれました。
「日本人の生活を知りたいです。」
何を紹介すれば良いかと考えました。そして休日に江戸東京博物館を案内しました。ただ若い女性と爺さまの二人では組み合わせが悪いので、妻と娘を誘いました.
「ここに展示されているのは、町の人の生活です。多数派であった農民、漁民たちの生活はここにはありません。けれどその限りでは、近世から現代までの日本人の生活が良くまとめられています。」
そして次の受講の日、文部省唱歌「二宮金次郎」の歌詞と譜のコピーを渡しました。
「私らが子どもの頃に教えられた歌ですが、これが小学校教育の基本であり、少し前まで、日本社会では、これが生活の基盤におかれていました。」
彼女、日本語は達者ですが。常用でない漢字や読み方があるので、説明も加えました。
「柴刈り縄ない草鞋(わらじ)をつくり、
親の手を助(す)け弟(おとと)を世話し、
兄弟仲良く孝行つくす、
手本は二宮金次郎。
骨身を惜しまず仕事をはげみ、
夜なべ済ませて手習い読書、
せわしい中にも撓(たゆ)まず学ぶ。
・・・・・・・・・・・.
家業大事に費(ついえ)を省き、
少しの物をも粗末にせずに、
・・・・・・・・・・・ 」
すると彼女は感激したのか眼を輝かせていうのでした。
「これ、これ、これですね。戦争に敗けた悲惨さから日本が立ち直ったのは、・・・・ 」
鋭い! 確かに現在,国際化社会の主流にある新自由主義的市場経済とは対極に立つ思想です。彼女の頭脳と感性の鋭さに今度は私が感激しました。
因みに、まだ技術現場にあった頃、アフターファイブの呑み会には、しばしば誘われました。ある日、なにかの弾みに、同じことを話しました.すると忽ち、「それは酷い!」。「そんなの無茶だ」などなど、もちろんみんな日本の若者たちです。
2.将来の夢に向かって. 学生との懇談会
不定期ですが、学生課の世話で学生との懇談会も開かれていました。ある日、「夢とそれに向かって」というような話題で、それぞれの夢と、そのためにしている努力が話し合われました。けれど、そうでない学生もいました。
学生A:「私はやりたいことが沢山ありすぎて目標を絞れません。だからなんにも、していません。」
学生B:「やりたいテーマを見いだせず、なにもしていません、これではいけないとは思っているのですが、・・・・ 」
いろいろ意見が交わされました。幸せな人たち、
「やりたいことがたくさんあるのは結構じゃないですか? どれかを諦めねばならないことはない。全部やってみたらいい。すべてに成功すれば、それは素晴らしいし。そのうちに諦めることも出て、結果的に目標が一つに絞られていく・・・・.それもいいでしょう。絞れないのなら、全部やってみれば・・・・.」
「テーマが見いだせなければ、なにもできないのは自然ですね。この大学(伝統ある経済系の国立大学)を卒業できれば、選り好みしない限り仕事はきっとあります。入社した後は上司の指示にしたがい、誠実に勤めなさい。大丈夫 生きていけます。やりたいことがなければ、社会的責任を果たす。それでいいのではないですか?」
両君とも納得しないようでした。
3.「お菓子のコーナー」
昼は協同組合の学生食堂で摂ります。ショップが隣接しています。教科書、専門書が並ぶ書籍部も、文具、日用品を扱う商品棚もあります。そしてパンやサンドイッチの並ぶ奥に大きく掲げられている売場表示は「お菓子のコーナー」! ショーケースには、スナック菓子、おやつ・ジュース類などなど、確かに「お菓子のコーナー」です。だけどここは大学の筈。戸惑う表示でした。
4.縄跳び
昼休み、大講堂前の広場、学生が2人、長いロープを大きく廻しています。それに向かって、一列に並んだ男性、女性の大学生たち。楽しそうな話し声と笑い声、先頭の一人が振り回されるロープに走り込んで、ぴょんぴょんと跳んで走り去ると、次の一人が続きます。次々と交代していく縄跳びの間にも、お喋りと笑い声は絶えません。周りの芝生はきれいに刈り込まれ、そこに はしゃぐ幼児たちと わが子を遊ばせている若いお母さんたち・・・・・ .
新制大学発足から60年、昔はとても考えられなかった平和になった日本と幸せいっぱいのキャンパスでした。