明けましておめでとうございます/尾上守夫
区>会員, 記>寄稿 (2010年度, class1947, 新年の挨拶)
季節も政治も経済もまさに冬ですが、パンドラの箱にも希望は残っていました。新しい年が皆様にとって希望に満ちた年でありますように。昨年と同じこの言葉をくりかえさなくてはならないことは残念です。
最近スロー・フッド、スロー・ライフなどという言葉をよく聞きます。効率至上、スピード優先のインスタント文化に対する反省からでしょう。写真の世界でスロー・フォトを求めるなら、ピンホール写真でしょう。ピンホール・カメラは画角が自由に選べ、焦点深度も深い。ただ欠点は小さな針穴を通る光量しか利用できないので、感度が低く、露出時間が長くなることです。スロー・フォトはそれを逆用したもので、たとえば繁華街で建物の写真をとる場合、ピンホール・カメラなら動きのある通行人や車は消えてしまって、建物だけが残るような写真をとることができます。フィルムの代わりに印画紙を使ってさらに感度をさげれば、左図のように直接太陽の軌跡を撮ることも可能で、ソーラーグラフと呼ばれています。これは英国の Justin Quinnell さんが冬至から夏至まで半年間露光して撮った写真です。 冬から夏にかけて太陽の南中する角度が次第に高くなっていくのがよく判ります。軌跡の間にある隙間は雨天、曇天をあらわしています。したがってこれ一枚で、その土地の緯度および半年間の天気の概要が判るわけです。この写真で驚くことは右図のようにフィルムケースで自作したピンホール・カメラを用いていること。道具よりも取り付けた位置を動かさないことが大事です。
私たちもゆるがない立場で世の中をじっと見ていれば、日常の些事にわずらわされずに、歴史の大きな流れがみえてくるのではないでしょうか。