シャークベイにて/伊庭斉志
かなり前のことだが、西オーストラリア(パース)で学会があり、その後で休暇をとってシャークベイに滞在した。ここは1991年に世界自然遺産に登録されている。シャークベイの近くには世界的人気の観光地モンキーマイアがあり、野性のイルカが見られる場所として有名である。モンキーマイアではビーチに一日数回イルカが遊びにやってくる。生態系を破壊するので餌付けは一般に禁止されているが、ここではレインジャーの指導による餌付けを体験することができる。また別の観光地として、海岸がすべて小さな白い二枚貝で埋め尽くされたシェルビーチがある。雪のように真っ白な浜が延々120キロも繋がっており、紺碧の海とのコントラストがとても美しく一見の価値がある。
ところで、シャークベイでぜひとも見たかったのは、世界遺産に登録される理由となったストロマトライト(Stromatolite)である。ストロマトライトは地球上でもっとも古い生物(35億年から27億年前)とされている。厳密には、藍藻類(シアノバクテリア)の死骸と泥粒などによって作られる層状構造がストロマトライトである。これらは先カンブリア時代には世界各地に存在していたが、現存するのは地球上で2箇所(シャークベイのほかにメキシコのクアトロシエネガス)しかない。
タクシーをチャーターして、野生のカンガルーを横目にしながらハメリングプールに到着すると、見た目はただの岩のような塊が海岸沿いに無数にあった。この塊がストロマトライトである。海辺を歩くと気のせいか塩水が足に痛かった。ハメリングプールの海水は通常より2倍ほど塩分が多く、海草などが育たない。そのため捕食する生物が進化せず、ストロマトライトが生き残ったとされている。近くに個人宅を改造した小さな博物館があった。そこでは、藍藻を育てる水槽展示があり、藍藻は酸素の小さな泡を少しずつ放出していた。ストロマトライト(の中のシアノバクテリア)は光合成を行い、酸素を放出する。
先カンブリア時代の地層に見られる大量のストロマトライトは巨大な酸素発生装置であった。つくり出された酸素ははじめ地球表面にあった鉄に吸収されていたが、鉄が酸素と結合して縞状鉄鋼層を形成してからは大気中に放.出されるようになった。その結果、22億年前から19億年前にかけて酸素分圧が上昇し、地球環境が大きく変わったとされている。つまりこの酸素の気泡は進化の原動力なのである。そう考えると、気泡を生み出す小さなバクテリアに、人知をこえた創発現象の源を見たような気がした。
パースに住んでおります田中と申します。今年8月にシャークベイへ参りましたが、”ストロマトライト”という名前を忘れてしまいまして、なんだったかなと思い、「シャークベイ 酸素」でインターネット検索しましたらこちらのサイトにたどりつきました。
ただの主婦が東京大学の方にこのようなメールをお出しするのは非常に気が引けるのですが、私たち家族が訪問した先の看板にはストロマトライトの上を歩かないようにと注意書きがあったと記憶しております。
100年に1センチ程度しか成長しない等の説明で、かつて繊維業のトラックがその上を走り抜けた跡が今もなお残っており橋の上を歩いて海の上から観察するようなつくりになっていたのではないかと思いまして、最後のお写真を拝見しまして少しハッとしてしまいました・・・・。
ただ、皆様が行かれた場所と私どもが見学した場所は違うかもしれませんし、そもそも私の英語力の問題かもしれません。
田中
コメント by 田中 — 2010年12月8日 @ 18:08
伊庭でございます。
このたびはコメントありがとうございます。
この場所には1995年にガイドとともに参りましたが、
そのときには強く注意を受けていませんでした。
スロトマトライトの上を歩いたわけではなく、
砂の部分を選んで進み、沖にに見に行ったと記憶しています。
橋があったかは記憶していません。
もちろん今となれば、確かにご指摘の通りかと思います。
ご了解いただければ幸いです。
コメント by 伊庭斉志 — 2010年12月9日 @ 11:57