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  • 共に生きて群れるとは?/伊庭斉志

    ずっと前に、趣味(=潜ること)の話をした。この前のオリエンテーションですっかりばれているので、その続きをしよう。

    海の中で見る生物の営みには、毎回潜るたびに新しい発見があり驚かされる。その中でも感心するのは、共生と群れ行動である(もうひとつ多様性というのがあるがこれは別の機会にしたい)。

    幸島をとくに有名にしたのは、サルのイモ洗い行動である。観測者がサツマイモを砂浜の上に置くと、イモと名付けられたメスのサルは海水に浸けて食べるようになった。砂がついていると不味いからであろう。これ自体は偶然の出来事で特筆すべきことではない。興味深いのは、この行動がイモの親族や友達にすばやく伝わっていったことである。また年輩のサルの中には決してイモ洗い行動をしないものもいたという。さらにあるサルは砂がついていない食物も海水に浸けはじめた。塩の味付けをするグルメなサルの誕生である。

    共生については、イソギンチャクとクマノミ、掃除魚(ホンソメワケベラ)と掃除をしてもらう魚(口の中にベラが入っても決して食べない)、ハゼとテッポウエビなどが有名である。ハゼは自分では巣を作らず、砂地にテッポウエビが作った穴に一緒に住んでいる。普通ハゼは穴の外に出て外敵が来ないかを見張っている。テッポウエビは敵がいないときには巣穴の中の土砂を外に出して甲斐甲斐しく掃除をする。この姿は見ていてとても愛らしい。敵が近くに来ると、ハゼは体を細かく震わせてテッポウエビに知らせる。テッポウエビは非常に臆病で、ハゼのちょっとした警告ですぐに巣に隠れてしまう(そのため下の写真はとても苦労して取っている)。このような共生関係がどのようにして成立したかは不明である。進化論的には、最初は寄生から始まり、競合したのち共生したという説がある。しかしながら、ハゼとテッポウエビにはいろいろな種類があり、その中には決まった組み合わせしかない共生の例もあるので謎が非常に多い。

    また魚がどのようにして群れるのかも面白い。捕食者に対抗するためといわれているが、バラクーダや大きなアジなどの群れを見ていると、それだけの理由とは考えにくい。実際に群れの中に入っていくと、ミクロにはセルラ・オートマトンによるような非常にシンプルな動きであるのに対して、マクロにはカオス的な非常に複雑な動きをする。おそらく、自分自身と仲間との間の距離を最適に保とうとする何らかのルールが進化論的に獲得されているのではないだろうか? しかしそれは何のために獲得されたのか? 魚や鳥のほかに、われわれ哺乳類にもこのルールは影響しているのか? こうした素朴な疑問と興味は尽きない。

    自分の研究分野(進化計算)においては、生物の行動様式に学ぶ機会が頻繁にある。上で述べた共生は協調行動の創発として研究されている。ロボットで賢いサッカーチームを作る試みがこの代表例である。群れ行動は複雑系研究の重要なトピックであり、boidと呼ばれるシミュレーションはCGアニメーションとして実用化もされている。今後も自然に学ぶという観点から、人工生命や人工知能の研究を続けていきたい。

    (伊庭 斉志:新領域創成科学研究科基盤情報学専攻・教授)

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