謹賀新年: 雷の裏舞台/尾上守夫
「地震・雷・火事・親父」といわれるように、地震と雷は世の中で怖いものの筆頭です。両方とも人類が昔から経験してきた自然現象でありながら、 今の科学でも理解を超えているところがあります。地震については一昨年の大震災でそれを痛感しました。最近雷についても同じようなに感じています。
雷が頭上にある時には、耳をふさいで桑原、桑原と言っているより仕方がありませんが、遠くに去ってくれれば、雷雲の上も垣間見ることができます。その裏側で、稲妻とは別の閃光を目撃したという報告が百年くらい前から時々出てきました。後で判ったことですが、ミリ秒単位の現象なので、なかなか客観的な記録がえられませんでした。1989 年になって、たまたまロケット搭載用の高感度ビデオカメラを調整していたミネソタ大学のウインクラー等が、映像を捕らえることに成功しました。それを契機に分光学的測定、2台の航空機による立体構造の把握、衛星やスペース・シャトルやステーションからの観測などで、研究が急速に進歩しました。図1 はその概念図です。当初の「赤いスプライト」の他に、「青いジェット」、「ELVES」といった別の発光現象も見出されています。これらは最高でも20kmの雷雲の頂上から、電離層のD層(60-90km)にわたって、多彩なショウを繰り広げています。雷の裏舞台は表舞台にも優って華やかなのです。
最近はNHKの開発した超感度・超高速カメラも活躍しています。「宇宙の渚File1. 謎の光”スプライト”」(2012年2月28日放映)をご覧になった方もおられるのではないでしょうか。まだでしたら、来る1 月2 日(水)午後9時からBSプレミアムで総集編があるようですから、初夢代わりにご覧になるのもいいではないでしょうか。
一方表舞台では雷に伴うガンマ線バーストが新たに登場しています。1991年にCompton Gamma Ray Observatory (CGRO) が打ち上げられました。これは本来宇宙空間から来る高エネルギーのガンマ線を観測するのが目的でしたが、地表の方からもバーストがくるのを見つけたのです。その成因として、初めはスプライトが考えられたのですが、その後の研究で雷雲中での電子の雪崩増幅によるものという説が有力になっています。雷雲中でそれに遭遇したら、一生の被爆限度量にあたるガンマ線を浴びることになると言われています。幸い旅客機は極力雷雲をさけて飛んでいます。
さらに地上では昔からの落雷があります。フランクリンの凧の実験に基づく、避雷針の発明で、この問題は解決したように思っていましたが、IT時代になって、その見直しが必要になってきました。
雷雲の下部の電荷(通常-)によって、大地に誘起された反対極性(通常+)が接地線を経て避雷針に達します。周囲より高く、しかも尖っているために電界強度が高くなり、落雷するとすれば、先ず避雷針に落ちます。
その意味では「避雷針」ではなく、「招雷針」と呼んだ方がいいかもしれません。接地抵抗が低ければ、落雷しても、雷電流は接地線を通じて大地に流れ、建物は守られることになります。実際は接地抵抗も、接地線も抵抗があり、落雷の大電流により、建物の各部に電位差を生じ、半導体素子など対圧の低い部品を使用した電子機器に被害を与える例が増えてきました。
そこでむしろ電界強度を弱めて落雷そのものを避けようという、図2に示すような新型の「避雷針」が出てきました。左は傘の骨のように広がったもので、イオン拡散方式(DAS)と呼ばれるもので、帯電防止用のイオナイザーと同じように各先端から+イオンを放出し、拡散した空間電荷で保護シールドを形成しようとするものです。
右は消イオン容量型(PDCE)と呼ばれるもので、先端に誘電体を金属板で挟んだ静電容量がついています。容量の下部には大地に誘起された+電荷がたまりますが、上部は逆に- になって雷雲との間の電界強度を弱めるのです。
怖いだけが雷ではありません。雷の多いのは豊年のきざしとも言われています。自然災害にめげずに、新しい年が復興の年になりますように。
図2(a)イオン拡散方式(DAS) |
図2(b)消イオン容量型(PDCE) 地球深部探査船「ちきゅう」 |
<1月3日追記>
末尾にふれた新型の「避雷針」については、いろいろ批判があることを、雷の専門家の同窓生がご注意くださいました。たとえば http://www.lightningsafety.com/nlsi_lhm/magic.pdf
和文で適切な解説がでるのが待ち望まれるところです。なおNHKのBSプレミアムの2日の放映は終わりましたが、再放送が5日(土)午後2時からあります。