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  • 最近の電子機器は難しい/山地憲治

    電気系教員として恥ずかしいのであまり公言したくないが、新しい電子機器を購入すると使えるようになるまでに毎回随分時間がかかる。私は原子力出身なので許してもらうことにして、一例を報告する。

    特に音楽好きでもないのだがiPodを購入した。iPodはアップル社が開発した携帯音楽プレーヤーで最近良く売れている。私が購入したのはiPodシャッフルというタイプで、よくあるマグネット付きのクリップくらいの大きさだが、1GBの容量がある。実際にクリップが付いていて服の一部に挟んで使う。価格は1万円程度、パソコンのメモリーとしても使えるのでこれはお買い得だと思った。

    iPodでは音楽はフラッシュメモリーに記憶されていて、普通の曲なら数百曲は入る。電源はリチウムイオン電池で、満充電すれば12時間くらいの連続演奏が可能である。消しゴムほどの小さい中に良くこれだけの機能を盛り込めるものだと感心する。

    ところで、iPod購入後しばらく私は使い方が分からなかった。説明書はあるにはあるのだが、広げても短冊一枚分くらいの簡単なパンフレットで何だかよく分からない。とにかくパソコンに繋いで色々試してみると少しずつ分かってきたが、やはり心もとない。結局はネット上でマニュアルを探してダウンロードしてやっと何とかなった。以前はパソコンなど電子機器を購入すると分厚い説明書が付いていて読むのが大変だったが、今回のようにあまりに簡単なのも困る。

    メーカー側から言わせれば、よく読まれもしないマニュアルを冊子にしてすべての製品に付けるのは費用がかかるばかりで資源の無駄使いということなのだろう。多機能化している最近の電子製品のすべての操作を解説するとなると確かにマニュアルは膨大なものになる。ユーザーにとっても、マニュアルは買ったときに一度ざっと目を通すだけというケースがほとんどだろう。製品自体はもうないのに解説書だけが残って、結局はゴミ箱行きということもよくある。したがって、マニュアルをインターネット上で公開し、必要なときに必要な部分だけを見るというのは確かに合理的である。

    しかし、今回のiPodについては戸惑った。そもそもこれを音楽プレーヤーだと考えたのがいけなかったのだと今は反省している。iPodはパソコンとインターネットの一部であり、昔の音楽プレーヤーのように一般ユーザーを対象とした機器ではないのだ。コンセントに差し込めば機能し始める単純な機器ではなく、マニュアルも含めてパソコンやインターネットと繋いで情報を得てはじめて使えるようになるのだが、その覚悟が足らなかった。

    10数年前に初めてザウルス(携帯電子手帳の先駆的製品)を購入した時には本体より何倍も大きい説明書が付いていて、この時は説明書が役に立ったのだが、今や情報環境はすっかり様変わりしている。今回の経験を通してデジタルデバイドの負組の気持ちが少し分かった気がした。使えるようになるとiPodは確かに便利で楽しい。

    (なお、本稿は電気新聞の時評「ウェーブ」に寄稿した原稿に多少手を入れたものです。)

    (山地 憲治:工学系研究科電気工学専攻・教授)

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