違い/小川 剛史
先日、2歳の息子が、カレイ(魚)の形をした箸置きを食器棚から持ち出し、これは自分の、これはママの、これはパパのとテーブルに並べはじめた。息子の前に置かれた箸置きと、私の前に置かれた箸置きを交換してみると、こっちが自分のだと主張する。妻のものと交換すると、同じくこっちが自分のものだと主張して取り戻す。面白くなってきたので、息子に見えないところで3つの箸置きを混ぜ、適当に並べるとこれが自分のだと言って取る。しかもそれが正しい。何度もやったが結果は同じ。確かによくよく見るとそれぞれ違う部分がある。しかし、こちらにはその違いをすぐに区別することができなかった。これが自分のものと瞬時に判断した息子にはちょっと驚き、ある研究のことを思い出した。
大人よりも赤ちゃんの方がサルの顔を見分ける能力に長けているという研究である。この研究では、生後6ヶ月の赤ちゃんに対して実験を行っているのだが、もちろん赤ちゃんが「この顔とこの顔が同じ」なんて言えるわけがない。通常、人間は既に見たことのある顔とまだ見たことのない顔を目の前にしたとき、まだ見たことのない顔を長時間見る傾向があるらしく、実験ではその傾向を利用してる。結果は、赤ちゃんは見たことのあるサルの顔よりも、初めて見たサルの顔を長時間凝視するのに対して、大人は特に凝視する時間に変化がなかった。つまり、大人はサルの顔を見分けられなかったということになる。実はこの実験、生後9ヶ月の赤ちゃんでは既にサルの顔を見分ける能力がなくなっていたというから、息子の箸置きの出来事にはあてはまらないのだが・・・
赤ちゃんはこのような見る力だけでなく、外国語の発音(たとえばよくあるLとRの発音)をちゃんと聞き分けられると言うし、赤ちゃんの能力には感心させられる。研究発表の場において「その研究は何が新しいの?」、「○○とは何が違うの?」と言われているところをよく目にする。研究者みんなが赤ちゃんのような見分ける(区別する)能力を持っていれば、こんな質問はでないのかもと思ってみたり。