『北×××』か『×××北』か/相田仁
柏キャンパスの南側にある柏の葉公園のまわりに『柏の葉公園』で名前の始まるバス停がいくつあるか、皆さんはすぐ言えるだろうか。柏キャンパスの正門から時計回りに『柏の葉公園北』、『柏の葉公園中央』、『柏の葉公園住宅前』、『柏の葉公園西』、そして『柏の葉公園』の5つである。これらの名前の構造を分析すると、『柏の葉公園住宅前』のみ『柏の葉公園住宅』までが固有名詞で、『柏の葉公園』および『柏の葉公園住宅』という固有名詞に、相対位置を表す『北』、『中央』、『前』、『西』が後ろに付いているものと考えられる。『前』が後ろに付く名前は鉄道でもよく見かけるが、『北』、『西』が後ろに付く駅名は鉄道ではほとんど見かけない。鉄道では『北千住』『西新宿』のように前に付くのが普通である。
このように、バスでは『東』『西』『南』『北』が後に付く場合の方がかなり多いのに対して、鉄道では後に付く駅名はほとんど無く、横浜市営地下鉄や多摩都市モノレールなどに見られるだけである。 鉄道の駅名の場合には、前述の『北千住』や『西新宿』のように、地名の前に『東』『西』『南』『北』が付き、それ自体がすでに地名化している場合が多い。これに対して、バス停の場合には、『××公園北』や『××病院東』のように、施設名に『東』『西』『南』『北』が付けられている場合が多く、この場合に『北柏の葉公園』と言ったのでは、(『柏の葉公園』の北ではなく)別の公園の固有名詞ように解釈される可能性が高いため、後に付けざるを得ないわけである。
耳で聞く場合には、『東』『西』『南』『北』が前についている方が聞き分けやすい。横浜市営地下鉄には、以前『新横浜』の隣に『新横浜北』という駅名があったが、『北新横浜』に改名された。新横浜と間違えて降車する人が多かったためらしい。『しんよこはま』の部分に比べて『きた』の音節数がずっと少ないことに加えて、本来『し↑んよ↓こはまき↑た』のイントネーションであるべきところ、音節数が多いため『き↑た』の部分がほとんど上がらずに発音され、聞き分けにくくなる。
我らの(?)『かしわのはこうえん』は『しんよこはま』よりさらに長く、事情はもっと悪い。それでも『か↑しわのはこうえんじゅうたくま↓え』と『か↑しわのはこ↓うえん↑ちゅうおう』は、後部にもかなりの音節数とイントネーションがあるため、聞きそこねることはほとんどない。これに対して『か↑しわのはこ↓うえんき↑た』と『か↑しわのはこ↓うえんに↑し』は苦しい。特に後者は『し』の音が無声化して音量が小さくなることが多いため、最悪といえる。
かと言って、前述のように『西柏の葉公園』とするわけにもいかない。そこで思いつくのが、前を短くする、という方法である。『柏の葉公園』と『柏の葉公園住宅前』はそのままとしても、残り3つの停留所は『公園北』、『公園中央』、『公園西』としてはどうだろうか。そうすれば、前後のバランスが良くなり、『き↑た』、『に↑し』の部分がきちんと発音されるようになり、ずっと聞き分けやすくなるのではないかと思う。
(相田 仁:新領域創成科学研究科基盤情報学専攻・教授)