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  • 同窓会の活性化/理事長 茅陽一

    このほど同窓会の理事長に選任された。大変光栄なのだが、同時に同窓会の現状をどう改善したらよいか、となるとだいぶ悩ましい気持ちになる。

    東大を定年退官したのは、いまから10年以上前だが、以来同窓会の総会や懇親会には、忙しさにとりまぎれてほとんど出席していなかった。そこで、昨年7月1日の東大での会には久しぶりに顔を出してみた。だが、まず驚いたのは出席者の少なさである。昔も総会出席者はさほど多くはなかったと思うのだが、懇親会となると学士会の2階の集会室がいっぱいに溢れて、自分の同級生がどこにいるのか探すのが大変だった記憶がある。ところが、今度は人を探すどころか出席者全部をあわせても数十人、そのかなりの部分が東大の教官連中という状況である。幹事に聞いてみると最近はずっとこんな有様だということで、特別少なかったわけではないらしい。なんともさびしい気持ちになった。

    もっとも、こうした組織に人が集まらなくなっているのは、同窓会に限らないようである。自分たちが大学を卒業したころは、学士会に加入するということは、大学卒業証書と抱き合わせくらいの感じで、加入しない人がきわめて珍しかった。だから、学士会の名簿は知った人の多くの情報が載っていて、いまでも一番よく利用するデータベースである。ところが、最近は大学を卒業する人たちの学士会への加入が大幅に減っていて、加入は、卒業者の一桁のパーセント、それも低いほうになっていることである。これでは、名簿だって利用価値は大幅に下がってしまう。また、学会にしても、昔は学会員になることが卒業して社会で一人前の電気技術者のみられるようになる証で、ほとんどが加入したものだ。しかし、現在では、学生会員の優遇があっても加入がなかなか進まない。そのために、どこの学会でも会員数が目減りしてきている。もちろんわが国の人口が低減傾向になったことも原因の一つであろうが、それよりなにより基本的には学会などに加入しなくとも、不便があまりなくなったことが大きな原因だろう。学会誌の記事はコピーをとればいくらでも読めるし、インターネットでもかなりの範囲はカバーできる。論文の発表を行なう人は限られているが、仮に自分が急に論文を発表しなければいけない事態になったとしても、そのとき学会に加入すれば発表は可能である、となると会費を払うのはばからしい、と考えるのは当然かもしれない。

    もっとも、こうした会への加入というのは、お互いが会を通じてのつながりをどこまで強く意識しているかが大きく影響してくる。特に同窓会はそうだろう。私は東大定年後、慶應義塾大学にしばらく奉職し、いまも客員教授の肩書きをもっているが、慶応との関連で一つびっくりしたのは同じ塾出身者の結束の固さである。私は慶応の教授といってもいわば外様でここ10年しか縁がないのだが、それでも企業など訪れたときなど、慶応の出身者は、私が慶応の教授だときくと、ほとんど必ず私の塾の出身です、とうれしそうな顔になり、その後親しげに応対してくれる。私がそこまで付き合う機会はなかったのだが、慶応の同僚の話をすると、海外にでかけても大きな都市には皆、三田会という慶応同窓生の集まりができていて、そこによばれて会食することが多い、という。私はいまだかつてそうしたときに、私が東大教授と知って、私も東大です、と自己紹介されたり、同窓会によばれたことはないが、これはやはり東大出身者にその仲間意識が少ないからなのであろう。それと、思い過ごしかもしれないが、東大出身者には集まるとその職場で権力指向をとられるのではないか、という不安があるのではないか。

    それでは同窓会活動を改めて活発にするとするとどうしたらよいだろうか。仲間意識を強めることが有効であることは確かで、そのためには相互の連携を強めるのが一番よい。ただ、上記のように、東大出身者自身に、職場で集まりにくい条件があるのだとしたら、やはり職場外部でいろいろな連携の機会をつくっていくことが重要であろう。

    そのためにはもちろん年一回の同窓会総会・懇親会は大事で、これをもっと盛り上げるために現在企画理事の方々に案を練っていただいている。開催場所、催しの内容など工夫によって同窓会の集まりかたも結構変わるのではないか、と期待している。しかし、それだけではやれることには限りがある。私が提案したいのは、まず大小さまざまに同窓生の集まりの機会を増やすことだ。東京はあまりに人数が多いからかえって難しいが、大阪、名古屋といった都市であれば、そうした地域的な集まりは可能ではないか。その場合、もちろん電気系だけに範囲を限る必要はない。工学部出身者の集まりでもよいし、都市のサイズによっては東大全体だってよいだろう。

    それにもともと私は、全体の同窓会懇親会がもう少し広い範囲で開かれてもよいのではないか、と思っている。電気出身者の仕事の範囲は現在は大変広まってしまった。かつて弱電、強電という分類がまかりとおったのだが、弱電の分野はハード面ではさまざまなデバイスと材料、ソフト面では情報からコンテンツに広がって、昔は縁もゆかりもなかった文学や絵画、漫画にいたるまでに手がのびている。強電にしても、エネルギー技術一般、エネルギーとそれにからむ経済社会問題など、関連分野は広い。そのたみに、工学の中でも、機械、化学、応用物理、情報などという分野の人々とは交流が大変多くなっている。だから、あまりに電気系にのみ固執するのではなく、たとえば機械や応用物理系などと合同の懇親会を行っても、さほど違和感はないように思う。それも、毎年行う必要はなく、何年かに一回という形でもよい。いや、むしろそのほうが久しぶり、という形でかえってよいのかもしれない。

    いずれにしても、これまでの形態にのみ依存していたのではやれることに限界がある。同窓会を活性化しようとするのなら、少し思い切った方策をとったほうがよいのではないか。もちろんお金のある組織ではないので、いかによいアイデアを出すかが勝負になる。同窓会の皆様も、どうか積極的に意見を出しでいただきたい。同窓会の事務局は東大の電気系学科内にあるが、そこを通じて同窓会の理事の方々に少しでも役に立つ情報、提言をいただければこんなにありがたいことはない。よろしくお願いしたい。

    (昭和32年電気卒 東京大学名誉教授、(財)地球環境産業技術研究機構・副理事兼研究長)

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