新任のご挨拶「人財は知財に通ずる」/浅見徹
昨年4月に大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻の教授に着任いたしました。前職はKDDI研究所で、所長在任中の5年間は株式会社研究所の財務諸表を読むことが業務の中心でした。また、出身は京都大学工学部電子工学科ですから、東京大学の教員としてはレアケースかもしれません。専門は通信工学で、企業在籍中は一貫してインターネット系のサービス開発に従事していました。過去四半世紀の通信技術は、技術とコンテンツを両輪として発展し、いま流行のP2Pもコンテンツの魅力あってのものです。一方で、このようなコンピュータ指向の通信技術は、研究面で一段落とした感があり、現在、将来に向けさまざまな研究ベクトルが模索されています。私の研究室では、主要テーマに次世代通信システムを掲げていますが、H2H、心と心をつなぐ通信の基本に立ち返り、社会インフラから社会システムへの脱皮を目指したいと思います。特に、通信業界はし烈な競争下にあり、よい人材を求めています。在学中に十分な訓練を施して、知力と胆力に優れた卒業生を産業界に送り込みたいと思います。 同窓会活動に関しては、出身大学の校風か、あるいは学生運動華やかなころ学生生活を送ったせいか、同窓会のオジサン達の世話には一切なるまいと、30歳代半ばまでツッパリ人生を決め込んでいました。いまとなっては反省しきりですが、一度遠ざけると逆に敷居は高くなるもので、組織としての同窓会にはかかわったことがないという次第です。ただし、気の合った同級生とは卒業以来定期的に交流してきました。若いころの個人的話題は、管理職になった30歳代半ば以降ともなると相転移し、業界の話題が中心になったのを覚えています。
異業種との情報交換はもちろん、同業者といえども、競争相手とはいえ利益共同体ですから、この種の横の情報交換は有益です。人は見たいものしか見えないというカエサルの言葉にあるように、会社のラインには部下に都合のよい情報しか上がって来ません。的確な決断のためには異なった視点からの情報源が必要です。「地頭で勝負できるのは35まで。悪友といえども人財。また、人財は知財につながる。」というと、いささか功利的かもしれませんが、真実と思います。学歴で出世できるほど世の中甘くない。ただし、学閥も利用できないようでは、出世はおぼつかない。学閥、ゴルフ閥、はたまたマージャン閥、これらは広い意味での人脈で、人間力の源泉です。同窓会もその一つと気づいたときは、手遅れのきらいがありました。社会生活上死活の知恵といえますが、授業では教えてくれませんから、いまでも私のような鈍い学生は社会に出て苦労しているのではないでしょうか。これを避けるには、同窓会とはいえ組織ですから、組織目標をもっと明確に示してやることが必要だと思います。卒業生を社会の財産とするためのヒューマンネットワーク、そのような同窓会であってほしい。そのためには、公開しない同窓会名簿ではなく、会員が使える同窓会名簿にするにはどういう仕組みがよいかといったことも考えていく必要があると思います。
(昭和49年京大電子卒 情報理工学系研究科電子情報学専攻教授)