君の名は/齋藤嘉博@クラス1955
記>級会消息 (2017年度, class1955, 消息)
“君の名は”といえば「昭和7年生まれ」の諸兄はだれでもすぐに数寄屋橋と真知子巻きを連想されるでしょう。
昭和27年のNHKラジオで放送されて、この時間には銭湯の女風呂が空になったといわれるほどの人気番組でした。しかし平成生まれの世代の人たちにこのイメージは通用しません。数寄屋橋という名は残っていても「へー、橋?だってこの辺りに川なんかないジャン」。
ラジオ番組は翌年大庭監督によって映画になりました。過日70年ぶりにこの映画をBDで見ましたが、いいですネエ。出演はこれも皆様おなじみでしょうが岸恵子、佐多啓二の二人にお景ちゃんこと淡島千景、若々しくてすごくきれい。それに笠智衆などのベテラン。冒頭の空襲場面から始まって防空壕、戦後のまだ川の流れる数寄屋橋近辺の様子、佐渡の景色などなど、涙が流れるくらい感激して2時間を過ごしました。
その映画から60年余りを経た昨年の夏に「君の名は」が封切りされました。新海誠監督のアニメです。これがとくに若者たちの間で大ヒットして12月には興行収入が200億円を突破し、これまでの“もののけ姫”を超えたのです。 |
昨年私は劇場に行こうと思いながら他のことにかまけて果たしませんでした。今年の夏、レンタル屋さんにビデオが出た機会に早速と、見ることが出来ました。
ストーリーは飛騨の山中、糸守町でお宮を守って暮らす宮水家の三葉(ミツハ)と東京の若者、立花滝が時折入れ替わる、しかもその二人には三年の時間差があるというもの。入れ替わりに気づいた二人がスマホで交信し、入れ替わった時の様子を記録しあうのですが、ある時突然交信がキレてしまう。それを不思議に思った滝が先に美術館で見た記憶の絵を頼りに飛騨に出かけてみると糸守町は落下した彗星による破壊で跡形もなく。三葉の名前も死亡者名簿に載っています。しかし黄昏時の一瞬、糸守湖と彗星の落下でできた池を見下ろす丘の上で二人は出会うことが出来て、君の名は?それから8年後に二人は東京で会うことができて……。過日このブログの欄で松虫寺の和尚のお話として「昔に戻って過ちの一つすらただすことはできんのです」と書きましたが、ここではこの後彗星の落下を予言した三葉の行動で街の人の大半が助かるという奇跡が。
オカルト的な面を持ちながらやや難解、空間と時間の錯綜した複雑なストーリーは、回転の遅い私には一度見ただけではなかなか理解できません。しかし映画と違ってビデオは疑問のところを再生することができるのが利点で、三回見てようやくその枠がつかめてきました。こうしたアニメを現代の若者たちはどのように楽しんでいるのでしょうか気になりますが、おそらく映像の読解に対する感覚が私たち、いや私の感覚とすっかり変わっているのでしょう。理屈ではなく感覚的に受け入れることができるのだと思います。
アニメといえばCGを駆使したスピードと破壊が頭に浮かぶこのごろですが、このアニメの絵は“トトロ”や“神隠し”に見られるような落ち着いた静かな絵柄。新宿や代々木の風景もよい色調で描かれています。菊田一夫の“君の名は”はあちこちに行き違いのある恋愛ものでした。このアニメの「君の名は」も三葉と立花の間には赤い糸ならぬ組紐がこころのつながりを作っていますし、行き違いの焦燥もあるのですが、こうしたアニメは私たちが子供の頃に見たおとぎ話の絵本と同じなのですネ。それは枯れ木に花が咲いたり、亀に乗って水中を竜宮城に散歩したり、熊と相撲をとったりの美しい空想の世界でした。現代の若者たちはアニメの中におとぎ話の世界を楽しんでいるのかもしれません。そして思い出すのはこうしたおとぎ話にはお爺さん、おばあさんの登場があったということです。それがなにか空想の世界と現実とをつないでお話を真実めいたものに仕立てていたのでした。
この「君の名は」でも三葉のおばあさん一葉が大切な役割を果たしています。神社の奥宮へ上がる紅葉がうつくしい山道を歩きながら「三葉、四葉(三葉の妹)、ムスビって知っとるか。土地の氏神様を古い言葉で産霊、むすびって呼ぶんやさ。糸をつなげることもムスビ、人をつなげることもムスビ、時間が流れることもムスビ、ねじれて、からまって、時には戻ってまたつながる、全部神様の力や。わしらが作る組みひもも神様の技。時間の流れそのものを表しとる」。なかなかいいことを言っていますし、この言葉にアニメ全編の思想が要約されているように思います。そしてこれは理屈ではなしにおばあさんが長い間生きてきた人世体験からほど走り出る言葉なのでしょう。身に沁みます。
これだけ話題になったアニメですので、封切り当時にはおそらく多くの雑誌などで専門家たちによって評論が取り上げられたことでしょう。それらを検証して現代の若者の気持ちを探りたいと思っていますが、大変面白い“君の名は”でした。先にこの欄でご紹介した“風立ちぬ”ではアカデミー賞のノミネートで終わって残念でしたが、さて日本ばかりでなく世界の若者たちに評判を呼んでいるというこのアニメは?
2017年10月16日 記>級会消息
平成の「君の名は」を、この斎藤さんの記事を読んで、どうにか少しばかり理解できました。有難う御座います。しかし、随分むずかしそうで、ついて行けそうもありません。それに比べて、昔の(昭和の)「君の名は」は簡単明瞭、単純でしたね。僕は映画は見ていませんが、NHKのラジオ・ドラマは時々きいていました。しかし、それより前にNHKのラジオ・ドラマでやっていた「鐘の鳴る丘」の方が、っずっと夢中できいていた覚えがあります。両方とも菊田一夫作でしたが。
コメント by 武田充司 — 2017年10月17日 @ 22:28
アニメの「君の名は」を鑑賞されていることに感服しました。私にとって「君の名」は遠い昔の思い出しかありません。昭和27年頃は、駒場時代で、夏休みや冬休みに岡山に帰郷すると、銭湯の女風呂が空になったという話を何度も聞きました。その後映画を見ましたが、主演の岸恵子、佐田啓二さんは勿論、淡島千景、笠智衆さんも大フアンでした。定年後、淡島千景さんは、演劇で拝見しました。
数寄屋橋と言えば、会社に入社して最初の忘年会で粋な先輩幹事さんがハトバスに乗せてミュージックホールに連れて行ってくれました。私より2年前に入社した先輩が「島根の母に見せたら仰天するだろう。」と言った言葉が思い出されます。
コメント by 大橋康隆 — 2017年10月17日 @ 23:20