• 最近の記事

  • Multi-Language

  • 近頃思う事(その13)/沢辺栄一@クラス1955

     4月の初旬にNHKのニュースで「大学の入学式を自分の大学でなく武道館のような広い会場でするとか、二回とか三回に分けて行う大学が増えてきた。


    それは入学式に学生の両親も出席するので、参加者が多くなり過ぎ、席が不足するのでこのようになってきた。会社を休んで入学式に出席する男親もいる」と報じていた。小学校の入学式以外は親に付き添われた経験のない者にとって異常に感じるのは私だけなのであろうか。親の甘やかしなのか、学生の自立心が無くなったのか、それとも親が会社を休んでも子供の成長を入学式で実感したいのか。現在の日本を表わす一種の空気なのであろうか。
     ルース・ベネディクトが「菊と刀」の中で日本はアメリカの場合と反対に幼児期に自由を許し、成長するにつれて拘束を加えていくと述べているが、戦前は日本の社会システムでは「甘えの構造」が野放図にならず、家族主義の中で報恩の心、忠、孝、義などの倫理規範が伝えられていたという巧みな自動制御が働いていたと学習院大学の香山教授が指摘されていた。日本の子供達は最初は母親の愛情に甘えつつ、人情味豊かに育てられ、やがて次第に恩返しの心、親孝行の心、感謝の心などを持つことをしつけられ、甘えを自制することを学ぶようになった。戦後になってアメリカの教育が導入され、また、権利意識のみが輸入され、アメリカ流の「大きくなるにつれて自由放任する」部分のみが取り入れられた結果、「甘えの構造」の自制構造が破壊され、抑制を欠くことになったと分析されていた。
     幕末の志士である橋本左内は満14歳で「啓発録」を書き、「稚心を去る」の中で13歳、14歳にもなれば稚心を去らなければ何事も成就しないと言っている。また、吉田松陰は9歳で藩主毛利候に山鹿流兵学を講義したという。これらは天才のやったことではあるが、当時の青少年の精神年齢は現代の青少年に比べ、かなり高かったのではないかと思われる。今日でもスポーツ選手、音楽家、世襲役者など、幼少の頃から各自の目標に向かって訓練や練磨を行っている人は自立心が高く、精神的に成長しているのではないかと推察できるが、一般的にはこのような人の数は少ない。選抜高校野球大会で準優勝に導いた花巻東高等学校の野球部監督である佐々木洋氏は「いま学校教育の中で人間教育をする場は部活動が凄いウエイトを持っている」と云っているが、本来行わなければならない学校教育、家庭教育で人間教育があまり実施されていないのはどういうことであろうか。
     「甘え」ということでは日本が経済的に破綻寸前である現在、子供手当ての支給、高校授業料の無料化など、非常に困っている所帯のみに支給するのなら分かるが、関連する全所帯に支給することは、一家を背負った世帯主なら子供を学校にやらずに働かせ、家計の援助をさせるのが普通であるのに、大局観のない政治家が全体を見ることなく、将来を見ないで、選挙だけを見たばら撒きである。受け取った子供達が将来、何故大人たちの失政を自分達が償わなければならないのか、また、自分達が困らなければならないのかと嘆くことになろう。政治家も「甘え」「依存心」を育成しているのではないかと感じている。4月15日のNHK「クローズアップ現代」の番組でアメリカの中産階級がオバマ大統領の医療保険制度等が財政赤字を増やし、将来の孫、子に付けを回すとして反対のキャンペーン活動、デモを行っていることを報じていたが、アメリカの人の考え方、行動力に目を見張らされた。
     最近、新聞の投書で見たが、生活保護者は何もしないで月に14万円支給されているのに、生活保護者でない自分は月にそれ以下の年金で生活しなければならないのはおかしいのではないかと不合理を訴えていた。また、皿洗いの募集をしたところ、働ける人は沢山いるのに全く人が集まらなかった。自分で仕事をするよりも生活保護を受けて、国に頼った方が楽だから応募しないのだという。
     フランスの貿易商で、親日家のポール・ボネ氏は欧米の考え方に立って、日本のマスコミは「弱者」が「善」で「強者」は「悪」と決め付けていることを糾していたが、マスコミも「甘え」を増長しているきらいがある。色々慈善を受けている弱者が受けている援助に感謝をせずに、当然のこととしていたり、更によこせと無理な権利を主張した「弱者の横暴」が蔓延していると聴く。「甘え」は一種の麻薬なのかもしれない。
     福沢諭吉は「学問のすすめ」の中で国民一人一人が独立しなければ国家の独立はないとし、「独立の気力を持て」と我々を鼓舞している。福沢諭吉が今、生きていたら何と云うであろうか、また、今後、本当の独立国家になっていくことができるのだろうかと思うこの頃である。 (2010.4.17)

    コメントはまだありません »
    Leave a comment

    コメント投稿後は、管理者の承認まで少しお待ち下さい。また、コメント内容によっては掲載を行わない場合もあります。