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  • 「ヒト」/新田義雄@クラス1955

    「ヒト」は、いわゆる「人間」の生物学上の標準和名である。


    その学名は(Homo Sapiens)(ホモ・サピエンス)で、「智恵ある人」であることはご存知の通りである。

     さて、私がこのようなテーマをあげたのは次の理由による。
     即ち、技術者の1人として技術史的に技術の流れを見てくると、第二次世界大戦後の支配的技術は、大戦中の技術の継続として原子力(核物理、工学他)、ロケット(宇宙工学他)そうしてエレクトロニックス(半導体工学、マイクロウエーブ他)であったと考えており、同じように20世紀後半から21世紀にかけての注目すべき技術は、分子生物学(遺伝子工学他)と人工知能(知能ロボット、金融工学他多岐にわたる。)と考えている。
     特に遺伝子工学のここ数十年の発達と成果には目を瞠るものがあり、人間にとっては、病気の治療から発症の予防に大きな力を発揮するであろう事は容易に考えられる。また、生物の適応進化の経過、人間が創造されるまでの経過がだんだん解明されてきている。 人工知能については、今更と言うかも知れないが、単なる計算力だけではなく、高度化した数学とソフトウエアによる人間的な判断力機能の進歩により、2足歩行ロボットや、株式投資などの金融工学をはじめ、先端的技術、製品の基盤技術として幅広く着実に浸透し発展している。
     また、人工知能は当然人間の脳の機能を模擬しようとしているから「ヒト」と共通点がある。しかしまだまだ未熟ではあるが、「ヒト」の「ヒト」たる所以は、極めて高い学習能力と自己発展性と考えると、やがて人工知能も経験を蓄積し自分でどんどん発展していくかもしれないと思うからである。(暴走の危険性を伴い、懸念も大きい。)
     「ヒト」、遺伝子工学、については、私は勿論専門家ではなく単に強い関心を持っている者に過ぎないが、一技術者としてみても大変興味ある事柄である。
     ヒトの染色体が23組46本(22組の常染色体と性染色体男はX,Y 女はX,X)が判ったのも戦後であり、二重らせん構造になっているのが発見されたのも、たかだか50年前であった。それから現在までの発展をみると他の工業技術に比べても発展の度合いが高く、我々人間に対しての影響力の大きい発展を遂げたのではないかと考えている。
     その中で興味を引く事柄の中から2つについて記載すると、
    1、 ヒトとチンパンジーのDNAの差は、約30億の塩基対の中で、僅か1.23%である。
    この地球上に生命が生まれて38億年、この間、数多くの進化や変遷を経ながらアフリカにおいて約500万年前にチンパンジーとアウストラルピテクス(猿人)が分かれ、旧人を経て現在の我々新人(Homo Sapiens)になった事が解明されている。
     2001年1月、ヒトDNA(ヒトゲノム)の読み取りが完了し、すでに読み取られていたチンパンジーのDNAと比べると、4つの塩基A、G、C、Tからなる約30億対の中での違いは、僅か1.23%であった。
      しかしながら、僅か1.23%の差ではあるが自己発展性の有無がチンパンジーとヒトとを一線を画す大きな違いを示している。
     
     この様な差は、DNAの中に書き込まれた遺伝子(我々にとっては、部品図と考えると考え易い。)の働きによるものであるが、遺伝子に使われているDNAは精々5~10%位で、後はジャンクDNAと呼ばれている。私は、壮大な無駄と言っているが、これも38億年の進化の中で生まれた必然的なものであったのかも知れない。
     その遺伝子の数は、ヒトは他の動植物に比べてさぞ多い事だろうと予想されていたが、(たとえば稲18000、しょうじょうばえ13500など)意外な事に今では30000位と予想されている。
     しかも、何億年前からのバクテリア由来の遺伝子220個程が人間に使われている事が判っている。工業製品では、到底考えられないことである。
     今、全世界の関係する研究所、製薬会社が遺伝子の解読に血眼になって研究しているが、一部解読されただけでも多くの事がわかってきた。今後体質的な病気の治療や発症予防対策に大きな力を発揮するものと期待される。
    2、 現代の人間の祖先は、約20万年前にアフリカで誕生した。(いわゆるミトコンドリア・イブの誕生)
     今から22年前に、カリホルニア大学のレッベッカ・キャン教授等により、ミトコンドリアの遺伝子の解析が行なわれ、現代人の先祖は今から約20万年前のアフリカの女性に行き着く事が発見され、大きな衝撃を与えた。
     ミトコンドリアは、細胞の核の中にある染色体とは異なり、核の外に数百ほどあるエネルギーの消費に関係する機能を持つもので、環状の16500対のDNAを持ち、受精の時に、父親のものは排除され母親のものだけが遺伝する事が判った。数が16500対と少ない事が解析に有利であり、母親、母親と辿っていく事が出来、その結果、今全世界にいる人間は、全て約20万年前のアフリカの女性に行き着く事がわかった。結局ネアンデルタール人もジャワ原人北京原人も、われわれの先祖ではなく絶滅した事が判明した。
     これは、30年前の教科書、学術書が全く使えなくなったという事で、これなどは、我々の工学では考えられないことである。
     
     まだまだ全く新しい発見がある分野であり、また人間の健康に画期的な効果をあらわす事が期待される分野でもあるので、今後とも専門外ではあるが、大きな関心を持って見守って行きたいと思っている。

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