近頃思うこと(その3)/沢辺栄一@クラス1955
記>級会消息 (2008年度, class1955, 消息)
現在、ボストン美術館の浮世絵展が開催されている。スミソニアン美術館に大河ドラマの篤姫が乗った籠が所蔵されていたことが分かり、日本での公開展示に交渉がなされているとメディアは報じた。
西洋文明が入り、日本の文化は捨てるべきものだとの意識が広がり、明治元年来の廃仏毀釈により多くの伝統ある日本の文化財が二束三文の値段で海外に売り渡された。しかし、日本の伝統芸術が貴重で価値のあることに気が付き、明治12年に古社寺保存法が公布され、また、岡倉天心などの日本美術復興の声も上がり、日本の伝統文化財が見直され、保護されるようになったことは良く知られることである。
美術ではないが、戦後も同様な欧米追随の現象は今日まで続いている。敗戦で日本人が精神的にも物質的にも空白が生じている時に日本が侵略したことですべてが悪く、日本が誇りの持てない国であるという意識が日本全体に浸透した。この意識を醸成し、幕末以来の日本人の気骨を抜いてしまった東京裁判で唯一人インドのパール判事が国際法によらない勝手な条例による戦勝国だけの裁判は国際法違反であり、(マッカーサーの個人的な)復讐のためのリンチであること、日本は自衛のために戦争に入ったこと、逆にアメリカが非戦闘員を大量に殺戮した原爆投下等は国際法違反であり、これに関係した者を戦争犯罪人にしないのはおかしいと主張し、独自の判決文を提出している。
この判決文は日本人の目に触れることを怖れて故意に正式な判決文には付加されなかった。昭和25年には博士の判決文を読んで、イギリス、アメリカの法曹界、言論界では裁判の違法性を指摘した。日本では昭和27年サンフランシスコ平和条約が締結され日本が独立した時に、日本無罪論としてパール博士の判決文が公開された。だが、日本の法曹界、言論界では無言であった。パール博士は来日での講演で当の日本の無反応を叱正した。朝鮮戦争で解任されたマッカーサーは上院で「日本は安全保障の必要で戦争に入った。侵略ではない。」と言明したが、日本では「老兵は消え行くのみ」というセリフだけ報じたのみであった。
戦後約60年経過してやっとパール博士の判決文が世間で話題になってきたようで、最近、「パール博士「平和の宣言」」(小学館)「パール判事の日本無罪論」(小学館文庫)を読んで、自分でも驚くと共に、戦争や軍閥を肯定、是認するという意味ではなく、多くの人にこの本を是非読んで頂き、日本人自身の精神において自国の名誉回復とこれまでの認識が改まることを望むこの頃である。
2008年11月10日 記>級会消息
最近東京裁判を学術研究の対象とした、優れた成果が生まれてきている。その一つ、日暮吉延氏の「東京裁判」は歴史的事実を踏まえ、法律的理論と国際政治の現実的な側面にバランス良く配慮した好著と思う。
同氏はパル判決について、次の二点を指摘している。一つは、「平和に対する罪」自体が成立しない・・従って被告は無罪という精緻な法理論。第二に、反西洋帝国主義に基ずく過剰に政治的な事実認定。
パル判決は必ずしも「日本無罪論」に直結しない事は承知しておく必要があると思う。しかし、パル氏の「侵略は定義不可能であり国際関係によって決まる」というのは卓見である。真珠湾は即「侵略のだまし討ち」になった。では同じ予防的先制攻撃のイラクはどうだろうか。
コメント by 寺山 進 — 2008年11月10日 @ 10:31
戦争の想い出も遠くなって近頃こうした意見が間々聞かれます。意見は自由ですが私は危惧の念を持っています。
1.次第に解釈は変わってきていますが、国際法は紳士協定で国内法と異なり司法も明確ではありません
2.太平洋戦争の侵略議論は措くとしても、日清、日露、満州事変といった一連の国家行動についての侵略論はどうなるのでしょうか
3.超強大な国と戦争を始め、学生を戦場、特攻に送り、沢山の人を空襲で失った責任、私たちの青春を無にした軍の責任は国内法で私達によって裁かれるべきと思いますが。その意味はともかく結果は東京裁判の結果と大きくは変わらないでしょう。
4.敗戦と裁判に不満があるとしたら、詔勅にかかわらずテロでもゲリラでもして米国に歯向かうべきでした。多くの国がそうした抵抗運動をしています。それを全くなかった責任は我々の世代にあると思います
5.東京裁判の行方、侵略だったという結果がホントウに現在の社会に大きな影響を与えているのでしょうか
コメント by サイトウ — 2008年11月13日 @ 20:50
11月13日の朝日新聞によると、今年度のサントリ-学芸賞の【思想・歴史部門】に、日暮吉延・鹿児島大教授の「東京裁判」(講談社)が選ばれた。
私が「好著」と言った直後の事なので、「自分の眼力も満更でもない」とひとり悦に入っている。
コメント by 寺山 進 — 2008年11月13日 @ 21:06