• 最近の記事

  • Multi-Language

  • バベッジの解析エンジン/尾上守夫

    このおじさんは一生懸命何を回しているのでしょう。これは下の写真にあるバベッジ(1791-1871)の解析エンジンです。デジタル・コンピュータの草分けといわれています。

    最近サーバー群の省エネが問題になってきていますが、コンピュータを動かすにもエネルギーがいるということを端的に示しています。

    バベッジ自身は解析エンジンを完成することはできなかったのですが、数千枚にのぼる図面を残しており、それに基づいて一部が2002年に復元され、ロンドンで展示されました。その時はガラスケースに収められたのを見ただけだったのですが、昨年春たまたま訪れたカリフォルニアのコンピュータの歴史の博物館で、その2号機の実演を見る機会に恵まれたわけです。前には気が付かなかったのですが、ちゃんと印字機構(下の写真手前)もあるのに感心しました。沢山の歯車やレバーが一斉に動いていく見事な動画は博物館のホームページでご覧ください。

    バベッジの時代は同じ年に生れたファラデー( 1791-1867)そして彼が生涯活躍したRoyal Institution of Great Britain(RI:1799年創立)の草創期と重なります。RIは王立研究所と訳されることが多いのですが、ロイヤルとはいっても全く民間の発意と資金で作られたものです。科学研究に合わせて科学知識の一般啓蒙に力をそそいできました。今も続く金曜講演、クリスマス講演(ファラデーのろうそくの科学もその一つ)は有名です。倶楽部のようなものですが、多くの倶楽部が男性のみを対象としていたのに対して、RIは女性の聴講を歓迎し、メンバーになるのも認めました。それで講演会は華やかなサロンのようになりました。

    多くはファッションとしての出席だったと思いますが、その中にバイロン卿の娘エイダ・ラブレース(1815-1852)がいました。彼女はファラデーに心酔して、実験助手にしてほしいと申し出たのですが、ファラデーに丁重に断られています。よく見かける右の肖像画は彼女がファラデーへ贈ったものです。

    エイダは数学が好きで、バベッジからも多くを学びました。バベッジがイタリーで行った解析エンジンについての講演録(フランス語)の英訳を行いましたが、それには本文より長大な註があり、解析エンジンのプログラム・コードがのっています。彼女が世界最初のプログラマーと呼ばれる所以です。

    それに因んでアメリカ国防総省は新たに開発したプログラミング言語をエイダ(Ada)と命名し、その規格番号(MIL-STD-1815)に彼女の生年を採用しています。

    解析エンジンの能力と限界について彼女は次のように記しています。

    The Analytical Engine has no pretensions whatever to originate anything. It can do whatever we know how to order it to perform. It can follow analysis; but it has no power of anticipating any analytical relations or truths.

    近年人工知能の夢は大きくふくれあがってきていますが、現在のコンピュータはまだこの枠が越えられません。

    実験派のファラデーと解析派のバベッジとは残念ながらそりがあいませんでした。二人はRIの役割について厳しい論争を行っています。しかしエイダは二人をよく理解し敬愛した稀な女性でした。

    日本でも子供の科学離れが問題になっており、その啓蒙のための活動がいろいろとなされています。しかし私は子供だけでなく大人や社会の科学離れにもっと危機感を感じています。RIにならって、お母さん達が、それに出席することがファッションになるような科学サロンを提供することも必要なのではないでしょうか。

    (事務局への年賀のご挨拶を記事として掲載)

    コメントはまだありません