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  • 中西宏明さんを偲んで/鈴木教洋

    本年6月、中西さんの突然の訃報に接し、深い悲しみとともに大きな衝撃を受けました。私にとっては、一回り以上年長の電気電子工学科の先輩でもあり、会社においても日々ご指導を頂いてまいりました。もうご指導頂けないと思いますと、残念な思いで一杯です。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

    今回、同窓会事務局より、追悼文の依頼を頂きました。数々の諸先輩方を差し置き、僭越至極ではございますが、追悼の思いを記させて頂きます。

    中西さんは、日立製作所の執行役社長、取締役会長を歴任され、リーマンショック後の巨額赤字転落からV字回復を果たし、「社会イノベーション事業」というビジョンを掲げて日立の成長をリードされました。さらには、2018年より経団連会長として、日本経済及び産業界の発展に尽力されました。

    私は、研究開発部門を管掌する立場にて、研究開発の方向性について、日々ご指導を頂いてまいりました。中西さんは、研究開発への造詣が深く、弊社内で毎年開催されます研究発表会には欠かさずご出席頂き、激励を頂きました。常々、「企業の研究開発では、具体的な製品開発など、今日結果が求められる分野もあれば、かなり先を考えて取り組まなければならない研究がある。時間軸が必要だ。」と言われ、中長期的な研究開発への投資にご理解を頂いてきました。また、顧客やパートナーと新しい価値を創生する「協創」のアプローチを日立グループで牽引され、2019年に中央研究所に「協創の森」を竣工した際には、「協創の森」に足を運んで頂き、懇親会では大いに激励して頂いたことを昨日のように思い出します。

    また、中西さんは、五神前東大総長と共に、第5期科学技術基本計画策定に携わり、「Society 5.0」を生み出しました。中西さんは、五神前東大総長との対談(「Society 5.0 人間中心の超スマート社会」日立東大ラボ、日本経済新聞社2018年刊)の中で、Society 5.0について、次のように述べています。

    「日立グループの改革において社会イノベーション事業という新しい方向性を打ち出した経験を通して、コンセプトの重要性を認識しました。個々の技術を語るだけでは社会全体の変革を牽引することはできない。これからは全体の方向性やビジョンを示すコンセプトが重要になると考え、あえて概念的な言葉を使ったのです。Society 5.0もそれと同様で、新しい社会を一緒に創り上げていくためのゴールの共有だと思っています。われわれが超スマート社会と呼んでいるのは、技術を乗り越えたその先にある、より人間的な社会です。その構築へ向けて、最初から「これがSociety 5.0だ」と設計図をすべて描くのではなく、コンセプトを創り上げていく過程で創造性が発揮され、新しい価値が生み出されることが重要なのだと思います。」

    このSociety 5.0を実現するために、研究課題の設定から一緒に行う新たな産官学のイノベーションエコシステムを作ることを目的に、2016年に「日立東大ラボ」を設立しました。ここでは、社会課題であるエネルギーとまちづくりをテーマに様々な領域の研究者の知恵を出してもらい、その中で技術課題を明らかにし、解決することをめざしています。2021年1月に開催された日立東大ラボ・産学協創フォーラム「Society 5.0を支えるエネルギーシステムの実現に向けて」には、中西さんは入院中の病室からリモート参加され、「地球に対して日本はどう貢献するかを議論すべき」とお話いただきました。このような熱い思いを引き継ぎ、産学官によるパラダイムシフトや新産業創出に繋げていきたいと考えています。

    中西さんは、世界経済フォーラムにも積極的に参加され、グローバルな経営者やリーダーと議論する中で、日本の経済界や日立の考えを発信、主張されました。本年4月に世界経済フォーラム・第4次産業革命センターが東京にて開催しました「第1回Global Technology Governance Summit」では共同議長を務められました。これが、私が一緒に仕事をさせて頂いた最後のイベントになりました。中西さんは、「Technology Governance Outlook」のパネルにて、「技術を人間の問題の解決につなげる必要がある。さらにデータの活用のためには「トラスト」の再構築が不可欠である。そのための道筋をつけるべく、どのようにトラスト構築していくのかを議論、目標設定するのがGTGSへの期待である。」と述べられました。データ利活用による価値創出が求められる中、日本が提唱した「DFFT(Data Free Flow with Trust)」の実現に向けて、努力してまいります。

    最後になりますが、デジタル社会、脱炭素社会など、産業構造改革が待ったなしの状況の中、中西さんの思いを引き継ぎ、デジタルを活用した人間中心の社会の実現を目指していきたいと思います。改めて、これまでのご尽力・ご指導に心より感謝申し上げるとともに、ご冥福をお祈りいたします。

    (鈴木教洋@クラス1984)

    略歴:
    1970年 東大工学部電気工学科卒業、日立製作所入社
    2017年 東大電気系同窓会理事
    2018年 経団連会長
    2021年 逝去(75歳)
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