新任のご挨拶「宇宙科学と大学」/橋本樹明
昨年4月より工学系研究科電子工学専攻の併任となりました、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部(ISAS)、略して宇宙研の橋本樹明と申します。1985年学部卒、1990年博士卒で、学部・大学院の7年間本郷に通いました。併任教員となって、本郷での会議等も多くなりましたが、久々の本郷は随分と様変わりしていました。まず、電気の本山が工学部3号館ではなく2号館に移ったこと。2号館の表側は、精密機械工学科であったころの古い建物と変わらないのですが、裏に近代的な高層ビルが隠れています。また、本郷キャンパスも、ローソンやスターバックス、サブウェイができるなど、お店は生協しかなかった時代とは大きく雰囲気が変わりました。
宇宙研には旧来から電気系併任講座が4つあり、私は、併任教員であった二宮敬虔教授、中谷一郎教授と一緒の研究グループであったため、東大の大学院生の指導には参画してきました。また、1991年から1994年は、電子工学専攻の併任助手となっておりましたので、意識としては東大電気系に半分所属していた気持ちでおりました。しかし会議等で東大の先生方とお話しすると、正直なところ、若干の文化の違いを感じるところもあります。
宇宙工学は応用工学であるのに対して、電気・電子工学は分野工学であることが本質的な違いでしょうか。宇宙研では、あるプロジェクトの実現のために、理学、航空宇宙、電気等の研究者が共同で研究開発をするのは普通のことで、同じ研究系(学科に相当)よりは同じプロジェクトに参加している研究者との関係が深いです。一方、同じ電気系の研究者でも、担当プロジェクトが異なると疎遠だったりします。特に最近、電気系の先生方とお話しして驚いたことは、JAXAと共同研究している先生も何人かおられ、しかも私も同じ衛星プロジェクトに関係していながら存じ上げなかったということです。私は科学衛星の制御系を担当していますので、プロジェクトを率いたり搭載機器を開発したりする研究者とは懇意にしているのですが、その先生方がデータ解析、理論研究などで共同している電気の先生方は、「知り合いの知り合い」状態で、存じ上げていませんでした。今後は、もっとお互いの研究内容を紹介し合うことが必要であると感じました。
このことは、大学内に閉じることではないと思います。電気系同窓会等を通じ、企業の皆様、官公庁の皆様とも連携ができるよう努力していきたいと思います。なお、本稿のタイトルは、昨年11月に安田講堂で行われた東大~JAXA学際講座20周年記念公開シンポジウムのテーマでした。そこでも、宇宙開発に対して大学が果たして来た役割、すなわち、宇宙科学プロジェクトを実現するための先進的学術研究と人材育成の観点が再認識されました。今後とも、学際講座へのご理解、ご支援よろしくお願いします。
(昭和60年電気工学卒 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 宇宙探査工学研究系教授)