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  • 春は飛ぶもの/杉本雅則

    花粉のシーズンが終わり、憂鬱な気分からようやく解放された。最近は、花粉がどの場所でどのくらい飛ぶのかと言った情報が日々提供され、対策が取りやすい。症状そのものが、社会的にも随分と認知されるようになったためであろう。私は花粉症歴ほぼ30年だが、まさに隔世の感である。もっとも、暑い夏の翌年は花粉がたくさん飛ぶとか、寒い冬だとどうとか、と言ったことで一喜一憂しながら年中過ごすことになるので、情報が多いからと言っていつも幸せとも言えない。

    さて、この花粉症、日本以外はそんな深刻(?)ではないらしい。大したサンプル数ではないが、海外の友人に聞いた限りでは、例えば春に多くの人がマスクをしている、なんて光景にはお目にかからないようである。つまり、外国に行けば、花粉だらけの環境から逃れられる!だからというわけではないのだが、今年は、3月、4月と立て続けに海外出張(国外逃亡!)させてもらった。

    ここからが本題。つい、半年前くらいから、飛行機に乗ると、なぜか頭痛がする、という状況になっていた。特に、離着陸時がひどい。幸い、飛行機を降りれば解消するので、そのままにしていた。ところが、前述の海外出張直前の国内出張の折、頭痛だけでなく耳の調子もおかしくなり、飛行機を降りても元に戻らなくなってしまった。早速病院に行き、「航空性内耳炎」という立派な病名をいただくことになる。飛行機内での急激な気圧変化に対して、通常なら、鼓膜の外と内の気圧の調整を容易に行える(耳管というのがその役割を果たすらしい)。が、風邪や花粉症等で、耳や鼻の調子が悪くなるとそれが出来なくなり、頭痛や耳が詰まった感じになる。治療は簡単で、しばらくは飛行機を避け、薬を飲んで回復を待つだけ。キャビンアテンダントなど、職業上どうしても飛行機に乗らなければいけない人は、鼓膜に小さな管を通すなりして、気圧を強制的に同じにする処置を施すこともあるそうである。

    で、私の場合はと言うと、同じ週に海外出張を控えているので、とても薬では間に合わない。そこで、手術をすることになった。と言っても、至って簡単。鼓膜に穴を開けるのである。聞いたときはちょっとびっくりしたが、まあそれも仕方あるまい。

    手術は耳の中で行われ、直接は見られなかったので、ここからは想像である。まずは麻酔。麻酔薬をしみこませた脱脂綿のようなものを鼓膜付近に当て、10分ほど待つ。そして、それを取り出すと、おもむろに、針のようなもので「ブスッ」と鼓膜に穴を開ける。これを2回ほどやって終わり。計15~20分程度の非常に簡単な手術である。痛みはそれほどでもないし、特に聞こえにくいということもない。ただ、「1週間くらいで回復して穴がふさがっちゃうから、帰りの飛行機は危ないかも」と医師から言われたときは、「回復が遅れてくれないかな」などと変な心配をしてしまった。幸いにも、その後の2度の海外出張や最近の国内出張でも、頭痛に悩まされることはなかった。ということは、まだ穴が開いているのかな??

    さて、この「航空性内耳炎」、これまであまり聞いたことがなかった名前なので、早速インターネットで調べてみた。するとなかなか興味深い情報に行き着く。たとえば、飛行機の中等で誰もが必ずやっていそうな鼓膜の内外の気圧調整法(鼻をつまんで勢いよく鼻から空気を出そうとする方法)は、「バルサルバ法」というらしい。イタリアの解剖学者Antonio Mario Valsalva にちなんで付けられた名前だそうである。この人は、17,18世紀の医学に多大な貢献したようで、例えば、「火事場の馬鹿力」のしくみの科学的説明なんかも、その一つと言われている。

    17世紀以前に、われわれ人間はこの「バルサルバ法」を知らなかったのだろうか?それとも、もともとあった民間療法に対して科学的な説明と名前を与えたということなのか。我々の鼓膜の内外で気圧の差が容易に起きるようになったのは、ある意味、科学技術の副産物か?このあたりはまだきちんとは調べていない。あくまでも勝手な空想である。

    雲上に浮かぶアルプス
    (パリ→フィレンツェ間の機上で撮影、2008年4月)

    杉本 雅則:工学系研究電気系工学専攻・准教授)

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