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  • エンジニアよ、厨房に入るべし/菊地和朗

    趣味は?と訊かれると、料理と答える。料理人としての天賦の才能があるのか、食い意地が張っているだけなのか、はたまた大酒飲みのせいは定かではないが、料理を作り、食べ、飲むことが大好きである。

    料理を始めたのは、かれこれ20年前にアメリカで一人暮らしをしていたころに遡る。毎日ハンバーガーやステーキばかり食べているわけにもいかないので、自己流で料理を始め、煮炊き、魚のおろしかたなどの基本技術を身につけた。酒飲みならつまみくらいは自分で作らなければと、調子に乗ってさらに腕を磨いた。そのうちつまみでは物足りなくなり、パスタをうち、パンを焼き始めた。子供達が大きくなると、「これはおいしい。」と週末料理をおだてられ、「来週はなにかな?」と言われると、否が応でもレパートリーは拡大の一途をたどる。フランス、イタリア、スペイン料理はもちろん、ギリシャ、トルコ、イラン、ロシア、インドは序の口で、中国、東南アジアは当たり前、ついには南米ボリビア、ペルーにまで至る。

    20年の研鑽で掴んだ料理のコツはと言えば、塩はぎりぎりまで利かせるのである。足りなければ味はぼやけるが、過ぎれば塩辛くて食べられない。火の通し方も同様である。生では食べられないが、過ぎればパサパサになる。うむ、よく考えるとこれはまさに我々の実験に通じるではないか。われわれが実験をする時には、最善の結果を求めてパラメータをふるが、過ぎれば装置や試料が壊れるのである。いつも壊れる寸前に最適値があるものだ。製鉄技術者も同じようなことを言っていた。転炉で鉄を溶かし、Mn、Mo、Coなど、何十もの元素を門外不出の秘伝のスパイスとして利かせて、所望の特性を出すのだそうである。これはほとんどカレーのレシピのようである。

    料理はかくもエンジニアに向いているのである。エンジニアよ、厨房に入るべし。定年後は、柏キャンパスにレストランでも開業するかと、半分まじめに考えている。

    (菊地 和朗:新領域創成科学研究科基盤情報学専攻・教授)

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