新任のご挨拶/長谷川禎彦
平成26年(2014年)3月1日に情報理工学系研究科・電子情報学専攻に着任致しました講師の長谷川禎彦と申します。
私は平成15年(2003年)3月に東京大学理学部物理学科を卒業し、大学院を工学系研究科電子工学専攻・伊庭斉志研究室に進学致しました。大学院での研究テーマは進化計算手法で、その中でも特に分布推定アルゴリズムと呼ばれる分野で研究を行いました。木構造データに対する最適化手法を提案し、従来手法が苦手としていた問題において、今までより大幅に高速に解くことに成功致しました。平成20年(2008年)3月に博士(科学)の学位を取得後、生命現象の理論的な側面に興味を持ち、新領域創成科学研究科・情報生命科学専攻の浅井潔先生及び有田正規先生(現・国立遺伝学研究所教授)のもとで二年間特任助教として研究して参りました。
平成22年(2010年)4月に有田先生の異動に伴って理学系研究科・生物化学専攻へ移り、そこで四年間特任助教をさせて頂きました。博士号取得後の研究テーマは一貫して理論生物学であり、特に生命現象の確率的な要素に注目してきました。生物の基本単位である細胞は非常に小さく、細胞内における反応は多くのゆらぎの影響を受けていますが、全体のシステムとしては正確に機能しています。このようなゆらぎに対するロバスト性や、ゆらぎを利用する機構について理論的に調べております。最近では生命現象における様々な疑問の答えを、最適化原理から探る研究も行っております。具体的には体内時計の最適設計原理に注目し、数理最適化によって現存する体内時計が環境に同期するという点において最適解に近いことを示しました。また、体内時計の様々な特徴がこの最適化原理から説明できることを初めて示しました。
私の所属は電子情報学専攻であり電気工学に属しますが、一見すると私の研究テーマである生物学と電気工学にはあまり共通点がないように見えます。しかし、生命現象では分子回路が中心的な役割を担っていますが、これは電気回路と多くの共通点を持っています。また、生命システムは様々な情報伝達を行っているため情報科学における解析手法が大いに役に立つなど、この二つの学問は密接に結びついております。今後は、近年発達を遂げている非線形物理における理論を生命現象に適用し、更なる生物学の理解へと結び付けて参りたいと考えております。
歴史ある東大電気系において講師として働かせて頂く機会を頂き大変感謝致します。今までの工学系や生物系における多様な分野における研究経験を生かして、情報学と生命科学という新しい融合領域において、研究及び教育に全力で取り組んで行く所存でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。