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  • 無題 /上條俊介

    私は、今までITSの研究に携わってきた。ITSと言えば、カーナビでお世話になっている人も多いと思うが、一般の人が知らないうちに画像センサーなどの技術が道路に投入され、渋滞や事故のマネジメントに役立っている。政府は、一昨年、ITS新改革戦略の一項目に「ITSを用いた世界一安全な道路交通の実現」を謳い、安全運転支援システムの実用化がすぐそこに迫っている。また、従来からの信号制御の進化やETCの導入といった努力によって、渋滞が緩和されてきている。しかし、そう遠くない将来、ITSを取り巻く環境には劇的な変化が現れるであろう。

    従来、ITSの技術は、自動車交通の進化を軸に発展してきた。しかし、エネルギーの大転換時代に向けて、自動車中心の社会から公共交通機関(バスも含める)へのシフトが急務となろう。例えば、ドイツのフライブルグのように市街地から車を排除して、パーク・アンド・ライドを推進している都市が増えてきた。ドレスデンのように、パーク・アンド・ライドの導入まではしないが、市内のほとんどの道路に路面電車網を張り巡らすことによって、車への依存度を限りなく減らした事例もある。私の友人は、ドレスデンでの一年半の駐在中、結局車を購入することなく済んでしまったそうだ。最近では、パリ等の車密度の高い都市でも路面電車の復活が進んでいる。あのアメリカでさえも、サンフランシスコの渋滞を解消するために鉄道(BART)を整備した。

    我が国のエネルギー消費全体のうち、運輸部門の占める割合は、おおざっぱに20%であり、そのうちのおよそ85%を道路交通部門が占めている。たかが17%であるから、道路交通部門の努力だけでエネルギー問題や環境問題が解決するわけではない。されど17%であり、循環型エネルギー中心の時代の到来に向けて、着実に改革を進めていくことが重要であろう。

    ITSの目的は、文字通りTransport Systemの高度であって、いかに化石燃料依存の交通から循環型エネルギーでまかなえる交通へと、市民の負担を軽減しつつ、いかに”賢く”シフトしていくか、ということも中心課題の一つになる。

    かく言う私は、2年前に自家用車を手放し、それ以来一度も自動車を運転していない。「いざとなればレンタカー」があるさと思っていると、意外に無くてもやっていけるものであった。あればつい乗ってしまうが、無ければ無いで済ませられるものなのだなと実感する。最近は、カーシェアリングという概念が定着し、マンションに何台か車を備え付け、30分単位で借りることができる例もある。カーシェアリングとは、文字通り一台の車を複数人で所有する感覚で、乗った時間ごとに料金を払っていく。こまめに清算される分、レンタカーよりお得である。今まで、買い物のためにどうしても一台は自家用車を所有しなければならなかった家族も、カーシェアリングがあれば自家用車を捨てようという場合もでてきているようだ。車を所有しなければ自然と車を運転する機会が減り、公共交通へシフトする、という良い循環が生まれる。

    東京は、世界でも稀に見る道路の入り組んだ道路網に、過密な人口が集中して移動するという特殊事情を抱えている。いかに公共交通を整備し、車を持たなくなった人の移動手段を確保するかが課題である。

    (上條 俊介:生産技術研究所・准教授)

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