大学での研究は1+1>2になっているか?/大津元一
大学の教員には教育とともに研究に従事する事が求められ、研究成果は論文数で評価される。一方、国立大学法人化以降は外部資金獲得も求められる。教員としては研究費が必要なので、各省庁などが公募している競争的研究資金に応募する事が一般的である。その応募申請書にしばしばエフォート率の数値を書かされる。それは応募者の全勤務時間のうち、応募研究へ従事する時間の割合である。この目的は、応募者が複数の外部資金で研究を行うことが多いことから、応募者自身がその研究に労力を集中するかを見極め、資金配分の重複を避けるためと思われる。この点において、1+1=2というような算術的法則を厳密に守るように心がけられているようだ。
ところが奇妙なことに、各省庁は別の種類の大型プロジェクトも複数公募しているが、これらの公募課題が重複している場合が時たま見られる。企画立案のときに吟味して相補的な課題を同時公募するか、または一つの課題の終了後その成果の上に次の課題を公募するなどの配慮をすれば資金配分の効率化、公平化が図れるはずだが、必ずしもそのようにはなっていない。即ち1+1が2またはそれ以上の成果を生むようにはなっていない。もちろん研究は元来効率の低いものであるが、上記はこの意味の効率とは異なる。
競争的研究資金、大型プロジェクトの企画立案担当者は、企画が認められ、実施者の選定が終了すれば、その後のケアよりも次の企画立案に精力を集中する必要がある事に一因がありそうだ。また、その他にもそもそも企画立案に値する優れた萌芽的研究ネタが少ない事、ネタの創造性をきちんと評価する制度が未発達であることなどにも起因する。
もちろん我々研究者にも責任がある。似たようなテーマで多くの研究者が盛り上がりを見せているという状況は、すなわち流行している研究を追うことは、先導性・創造性とはかけ離れたところにある。これでは1+1>2となる成果を生むことは容易でない。
(大津 元一:工学系研究科電気工学専攻・教授)